2022 Fiscal Year Research-status Report
On Biopolitics, IT and Civil Society: How systems for electronic health/patient records have been, and will be, developing and utilized in Japan
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18K18473
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
佐々木 香織 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (40758314)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2024-03-31
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Keywords | 生政治(バイオポリティクス) / 医療情報 / ANT(アクターネットワーク理論 / 市民社会 / ビッグデータ / 個人情報保護 / 次世代医療基盤法 / 利活用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は医療情報の電子化を推進・展開する政策・研究・実践と、市民社会との関係性を、生政治の視点とANT(アクター・ネットワーク理論)を導入して探究するものである。具体的には理論研究を行う傍ら、関連領域に対する文献調査と参与観察や聞き取り調査を行い、生政治とANTの理論的な枠組みを用いて調査内容を分析するものである。 22年度は2方向で研究を行った。第一に医療情報の利活用の進展の実態把握に関しては、オンラインでの聞き取り調査と文献調査を中心に行ったが、コロナ禍の影響が若干緩んだため参与観察と聞き取り調査も多少だが行った。第二に調査結果に対し理論的な応用が可能となるような以下の研究を実施した。a)ANTを医療という場に応用して分析する枠組の考案; b)デジタル技術の(利)活用の社会的意味や倫理・法的課題に関する理解; c) 生政治の理論の批判的検証; d) 生政治におけるデジタル技術の応用の意味を、医療を超えて考察する理論研究。 この調査と考察・研究で明らかになったことは、いささか生政治の哲学とANTの枠組に沿って記述すると、以下の通りとなる――IT機器を含めた多様なアクターが相互に連関≒ネットワークを形成する過程で、医療情報(利)活用にむけて多様な「分節化」と「翻訳」がなされ「医学・科学的」な「事実」が構築されている。その過程で DXやフェムテック等の周辺領域においても、他の多くのアクターが新たなネットワークの形成をし、医療情報の(利)活用について更なる分節化と翻訳がなされている。更に上記のどちらの局面におけるネットワークの形成において、「生政治」としての統治のあり方が構築されている――なお、これらを具体的に記述することが、本研究の目的となる。 上記で明らかにした部分を、具体的に成果として学術的に発表したのは、三回の口頭発表と1本の学術論文の出版である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最大の理由は、研究開始の最初の1年目で家庭の諸事情と本人の健康状態に問題が生じたことで、研究が大幅に遅れてしまった影響である。更にコロナ禍も重なり、ANTの理論構築を盤石にするための海外研修が不可能となった点、そして参与観察や聞き取り調査のために現地へ赴くことができなかった点も、研究へ多大に負の影響を与えた。 しかしながら家庭の事情も好転し、本人の健康も回復し、更にコロナ禍の状況にも慣れてきたため、昨年度はある程度の範囲で研究をコンスタントに取り組むことが可能となった。その結果として、昨年度から本年度の秋までは、研究を徐々に進めて遅れを取り戻すことができた。ところが、10月以降に再び家庭の事情(老親の介護)が不安定な要素となり、研究の進捗に遅れが出てくるようになった。またコロナ禍のため依然として、フィールド調査や聞き取り調査に障害があることは否めず、結果を出せるようなフィールドワークとその記述ができない状況が続いている。このフィールド・聞き取り調査の分を、補填して研究成果を出せる道を模索しながら、研究を進めている次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は理論研究と参与観察・聞き取り調査の二つに分かれる。理論研究としては、ANTを如何にしてデジタル医療情報の(利)活用と生政治の発展という場面に応用するかといった、理論・方法論の考案に本年度に漸く目途が立った。そこで来年度はそれを盤石にする理論研究を進めるつもりである。それによりANTに基づいた記述へ結び付ける予定である。 調査研究は、昨年に少しずつ実行した聞き取り調査と参与観察を続行する。対象は以下A)B)の二つとなる予定である。A)行政や医師会と連携して政策的に医療情報の(利)活用を進めている事業。B)企業や研究者がコラボして新たな医療情報の(利)活用をDXやフェムテックという形で進めている事業。これらの事業において、モノを含めたアクターたちのネットワークの形成とそのダイナミクスを捉えたい。 この調査から以下C)D)の2点を考察する――C) デジタル技術の導入に伴って集結するアクター達(医療研究者、IT技術者、医療政策担当者のみならず、データや開発する機器といった多様なモノと事物を含めて)がネットワークを形成する中で、様々な医療情報の(利)活用の展開へと翻訳されていく過程; D)上記の状態が、様々な様相で [当事者の意思や意図は別として] 生政治へと発展する過程; F)上述の諸々の局面で形成されている様々なネットワークが、DXや臨床医学や医療研究や個人情報やフェムテックや生政治といった領域を(再)分節化しながら、それらを社会的に実践して構築していく過程。 これらの考察を通じて、以下のF)H)の二点を実践し、研究目的を達成したい。F)ANTの応用発展可能性の議論、H)医療情報が担う社会的な役割、生政治のあり方、そして科学技術(すなわちIT)と社会の関係に対する新たな知見や問題点の探究。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していたフィールドワーク調査が実行できなかった。そのため旅費が主に余ったことになる。
次年度は、フィールドワークと、聞き取り調査にかかる資料整理・データ入力補助の謝金として支払う予定でいる。
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