2018 Fiscal Year Research-status Report
東欧移民芸術家の戦時下のアメリカ社会におけるデザイン活動
Project/Area Number |
18K18475
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
井口 壽乃 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (00305814)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | ニュー・バウハウス / ハンガリー人芸術家 / シカゴ産業芸術協会 / 戦時下のデザイン教育 / カムフラージュ / セラピー / カラー映画 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、①ハンガリー人芸術家モホイ=ナジ・ラースローのシカゴ時代に関する資料収集・調査を、遺族の所蔵するイリノイ州アナーバーのアーカイヴにて実施した。遺族から、1943年にスクール・オブ・デザインで製作された学生作品および授業成果を撮影した未公開のカラー映画の提供を受け、この映像資料からスクール・オブ・デザインにおける実際の教育実践、すなわち子供のためのワークショップ、カラー光工房、カムフラージュ・コースの授業が把握できた。カムフラージュ・コースの指導はジェルジ・ケペシュが担当し、戦時下に軍からの要請によるデザイン実践がなされたことが解明できた。 ②ニュー・バウハウスの元学生ネイサン・ラーナーの未亡人が所蔵する作品および資料の閲覧、並びにラーナー夫人へのインタヴューをシカゴのラーナー夫人宅で実施した。ネイサンの初期習作を含む未公開の作品からは、ニュー・バウハウスにおける教育のその後の展開の一端が解明できた。そしてラーナー夫人へのインタヴューを通じて、モホイ=ナジとジェルジ・ケペシュの芸術教育における全人教育思想と人物像がより鮮明に浮かび上がった。そしてモホイ=ナジの死後、スクール・オブ・デザインの芸術教育において、教師陣たちと後任の学長の教育方針との食い違いも明らかとなった。 東欧移民の芸術家が、戦時下の米国シカゴの困難な状況の下で、いかに創造活動を継続していったか、上記2つの調査から深めることができた。 研究成果の公開として、東京ハンガリー大使館にて映画上映および講演の実施と、バウハウス研究者との意見交換を行なった。「L. モホイ=ナジの映画上映・講演会:シカゴ・デザイン・スクールにおける知られざるデザイン教育ー未公開フィルムをめぐって」2019年2月7日)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた芸術家の遺族の所蔵する資料の閲覧および資料収集は予定通り実施できた。遺族の協力により、新資料(未公開カラー映画)が発見されたことで、新知見を得ることができた。さらに当初の計画にはなかったが、ニュー・バウハウスおよびスクール・オブ・デザインの元学生の未亡人に面会し、学校での習作の閲覧ならびにインタヴューを実施したことによって、研究の大きな進展がみられた。 予期していない研究の進展として、シカゴの出版社のポール・テオボルトが東欧出身の移民芸術家、およびドイツ・バウハウスの関係者を支援者として、重要な役割を果たしていたことが調査の結果からわかった。ポール・テオボルトの出版社が出版したL. モホイ=ナジの遺作『ヴィジョン・イン・モーション』の和訳を行い、解説を含む日本語版の刊行(国書刊行会より2019年7月)を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度に収集した資料から新たに判明した歴史的事実について、シカゴ芸術研究所およびシカゴ産業協会に関する資料の収集の必要があり、令和元年度はシカゴ・アート・インスティチュート図書館の調査をする予定である。 さらにネイサン・ラーナーを含むニュー・バウハウスの元学生人や関係者の証言から、東欧出身の芸術家の人的交流についても調査の必要があるが、遺族の高齢化もあり具体的な調査先や人物を探すことは、困難である。スミソニアン・アメリカン・アート・アーカイヴズに収蔵されているインタヴュー・テープ等を調査することで、当事者の証言を確認することができれば、研究はさらに進展できるものと期待できる。 ニュー・バウハウスおよびスクール・オブ・デザインの関係者に、これまで注目されてこなかった東欧移民芸術家についてもさらに調査することで、東欧出身者の米国における状況が、明らかにされると考える。
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Causes of Carryover |
当初計画していた米国の移民関係調査のための海外出張が、学内業務の都合により、実施できなかったため、旅費を繰り越すこととなった。
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