2018 Fiscal Year Research-status Report
Logical evolution and implementation of art coefficient
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18K18478
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中村 恭子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (00725343)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡司 幸夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40192570)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 藝術係数 / トリレンマ / エンタングルメント / 日本画 / 書き割り / 潜勢力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的である藝術係数の論理的進化において、研究対象としていた「留守模様」と「独身者の機械」に関する議論と調査を進めた。その成果の一部は、2018年12月に刊行した『TANKURI 創造性を撃つ』(水声社)の11章「花喰鳥」、特別付録「独身者の機械再考」に収めた。 また、2019年2月に国際誌に郡司との共著論文が2本掲載された。一つは藝術係数を量子論で議論される現象エンタングルメントとして位置付けたもの、もう一つは藝術係数を再検討する郡司のトリレンマの論証におけるエンタングルメントに関するものである。前者は、意図するものと実現するものの排他性が無効にされ共立する状態を、原因と結果の共立としてマクロなレベルにおける非局所性として捉え、「もつれ」になぞらえたものである。後者は量子力学を導入しなくても、認知レベルで非局所性が導入可能であり、非局所性によって自由意志と決定論の共立が成り立つことを示す論考である。 そのほか、11章で議論した留守模様の様式をとる《宇津の山図屏風》に見出される藝術係数の潜在性や潜勢力が、両眼視差の無効化によって生じる亀裂として構想可能であることを示し、それは、日本画の伝統的な書き割りの表現技法によって実装される可能性を検討した。この主張を2019年3月に国際会議World of Entanglementで発表した(題目:Entanglement of vision and the outside, its painting expression)。書き割りの表現方法の実践として中村は日本画《歌手たちはどこから》を完成させ「TANKURI 創造性を撃つ」展(Art Space Kimura ASK?、東京)で公開した。郡司は同国際会議で書き割りに関係する発表Subjective non-locality in cognitive systemを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非局所性を実現するエンタングルメントは、外部と共に生きるマクロな我々においても実現され、量子力学が必ずしも必要なわけではない。そこに要請されるのは、決定論的因果律と自由意志のような、排他的で共立させると矛盾する二項の無効化である。 藝術係数を仕掛ける制作の現場とは、まさに制作意図と結果的な作品の実現の関係を宙吊りにし、意図と実現の関係を無効にすることであるから、エンタングルメントは強く見出せる。仕掛けとして操作可能な健在するこちら側と、知覚できず潜在するあちら側が、圧倒的な非対称性と断絶を持ちながら連続し、接続しているという現実=作品が開かれることになる。潜在と健在の混在する場の開設こそが、エンタングルメントで開かれるものなのである。 本研究を進めていく中で、とりわけ日本画であるということ、つまり日本文化の本質が、藝術係数と緊密であることが分かった。日本画の本質は、「向こう側・外部を待つ態度と技」にある。向こう側を待つ態度とは、知覚できないものを待つ態度である。山の向こう側は、大人ならこちら側と同じように、回り込みさえすれば存在すると考える。しかしそれは論理的証明とは無縁の経験則にすぎない。向こう側が存在する根拠はどこにもなく、我々は存在しないかもしれない向こう側からやってくるものを、ただ待つしかない。存在しないかもしれない向こう側は、左右視差を無効にし、脳が作り出す三次元的視界の向こう側を示唆する日本画の書き割りによって、構想され得る。経験則による向こう側の隠蔽は、書き割りによって暴きだされるのだ。その結果、知覚できない外部の存在を認め、待つということの意味が明らかになる。それは、藝術係数のギャップの潜在性や潜勢力として捉えることができる。よって本研究においては、能動的な制作は、むしろ反創造行為と言える。いかに能動的な制作を脱する創造行為(脱創造)に向かえるかが課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で挙げた能動的な制作を脱する創造行為(脱創造)は、現代哲学者が論じる潜在性や潜勢力と密接な関連を持つことがわかった。そこで、「向こう側・外部を待つ態度と技」を中心に据え、その実践例を中村の制作から示し、創造性とはなにかという問いに対する答えの具体的なビジョンを表出していくことを進めていきたい。 中村は長野県下諏訪町の諏訪大社の御柱を書き割りとしての棒として捉え、それを潜勢力、つまりは藝術係数の仕掛けとする制作研究を進め、日本画の視野による潜在性や潜勢力を設計することを試みる。御柱祭は7年毎の寅と申の年に開催される。山から選ばれたモミの大木が御柱となるため切り倒される。御柱は氏子によって里へ曳行され、最終的に諏訪大社の社殿の四隅4箇所に垂直に建てられる。諏訪信仰には謎が多く、起源については諸説ある。多くは諏訪大社上社による知見からなされる研究である。それらによれば、信仰されてきた土着神を示す石棒の配置される所に巨木が根を張り立っていることから、生きて根を張る樹木こそが本質として捉えられている向きがある。しかし中村はむしろ世界から切り離され、加工され、無効化されたただの棒であることにこそ、潜勢力を見出している。 また、関連して郡司と共同でミナミコメツキガニの習性を応用した建御柱の動物実験を進める。そのほか、郡司らが行なっている締め付け機の実験による身体の書き割り性を踏まえ、視野・身体・精神にまつわる藝術と科学を横断した実験的展覧会を開催予定である。 そのほか、今年度には研究実績の概要で挙げた「TANKURI 創造性を撃つ」の英語版を早稲田大学の助成を受けて刊行予定である。国際会議で発表した書き割りの日本画表現については国際誌に投稿予定である。最終年度には本研究の成果を一般書として刊行することを目標としている。
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Causes of Carryover |
応募していた海外国際会議の参加合否の連絡が開催日程ギリギリまでなく、参加を取りやめた。次年度に当初予定していなかった出張(学会参加)を行う可能性が発生したため、そのための次年度使用額として計画した。
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[Journal Article] Slime mould: The fundamental mechanisms of biological cognition2018
Author(s)
Vallverdu, J. Castro, O., Mayne, R., Talanov, M., Levin, M., Baluska F., Gunji, YP., Dussutour A., Zenil, H., Adaamtzky A.
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Journal Title
BioSystems
Volume: 165
Pages: 57-70
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Book] 天然知能2019
Author(s)
郡司ペギオ幸夫
Total Pages
256
Publisher
講談社
ISBN
978-4065145135
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