2020 Fiscal Year Research-status Report
Logical evolution and implementation of art coefficient
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18K18478
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中村 恭子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, フェロー (00725343)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡司 幸夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40192570)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 書き割り / 脱創造 / 藝術係数 / 外部 / 受動性 / 天然知能 |
Outline of Annual Research Achievements |
アガンベンは藝術の創造行為において、創造と脱創造の対比を喚起する。藝術家の内部にあるものを積極的に封滅した作品が従来のいわゆる創造であり、それは藝術の本質が内側に隠されていることを暗示している。対して、脱創造は、藝術家は知覚された世界の外の何かが召喚されることができる装置として作品を制作する。デュシャン以降、藝術が「あること(being)」から「なること(becoming)」へと移行していき、アガンベンら現代哲学が示す脱創造の議論は「なること」の思想に関して、芸術と哲学の橋渡しをするための希望的な候補であるが、脱創造に関する議論は明確ではない。一方、本研究では郡司が提唱した天然知能(NBI)という概念の核心部分に、知覚された世界の外にある何かを召喚するための装置として藝術係数を捉えた。外部を呼び込む装置として藝術係数を発動する作品は、鑑賞者や藝術家の創造行為において積極的に外部を待つことを受容させる。つまり、「待つ」ことの積極的受動性である。これまでの郡司との共同研究で、この受動性を示す写実性として、日本美術、特に琳派などが表現してきた緑色の図形のような半円の山々に、「書き割り」の視点を見出した。本研究では、現代哲学者が潜勢力に脱創造の鍵を見出した議論を、「書き割り」の視点を実装した藝術制作による作品として実体化することを試みた。具体的には、チリの墓碑アニミータに見られる信仰や、昨年度より取り掛かってきた長野県下諏訪町の御柱にまつわる脱創造のあり方のなかに「待つ」受動性を見出し、これを作品として実装した。 計画当初想定していた藝術係数と「留守」の関係を、単なる「不在」ではないかたちで、本研究で「書き割り」の受動性としてその創造性(脱創造としての)を明確化できたことは、大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の成果を多く残すことができた。まず、本研究の背景である藝術係数と関連したトリレンマについての論文を共同研究者の郡司との共著で国際学術誌に掲載した(2020、Biosystem)。また、研究過程で見出した「書き割り」の視点から、チリの墓碑アニミータにまつわる藝術係数と脱創造の関係を示す作品制作を行い、その制作についてをまとめた論文を国内学術誌に掲載した(2020、共創学ジャーナル)。さらに、昨年度に取り掛かった長野県下諏訪町の御柱を題材とした脱創造の実践(作品制作)を含めた、本研究の総説的な論文を国際学術誌に掲載した(2021、Philosophies)。本研究課題の成果の一部を示した論文を共著の書籍(西井・箭内編、担当章:序章、2020、京都大学学術出版会)としても刊行した。その他、本研究の成果にかかる研究テーマが京都学術出版会の出版企画に採択された。これは2021年秋に共同研究者の郡司らと共著で刊行予定であり、中村はアニミータの書き割りのメカニズムに見られる受動性と少女性にまつわる論文をまとめる予定である。 また、VRを駆使したオンラインギャラリーの個展を実験的に導入(2020、アートスペースキムラASK?)、非公開式やオンラインによるシンポジウム・研究会などを開催した。対面形式では感染症対策を徹底のうえ3月に個展を2件開催し(2021、新潟市美術館市民ギャラリー、アートスペースキムラASK?)、本研究の成果を一般に向けて公開できた。それぞれの展示期間中に合わせて記念シンポジウムも開催した。 感染症拡大の影響により、国内外の学会などの開催・参加が叶わず、招待されていた展覧会「青森トリエンナーレ2020」も中止となったが、研究計画当初にはなかった研究内容の展開、そしてそれを国際誌などでも公開できたことは、計画以上の進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
秋に京都大学学術出版会より出版予定の書籍刊行に向けて論文を執筆していく。今年度より取り掛かっている今後の論文内に含まれる藝術制作における成果が、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策による自粛等の影響で、表具作業における技術者との連携がやや難しくなっている。表具作業には対面形式での打ち合わせが必要不可欠であり、感染防止に最大限努めながら進める。 アニミータの少女性から着想した新たな制作・研究課題も見出しており、これらを展開させて、論文、そしてVR技術やオンラインを併用した展覧会、シンポジウム、会議などで公開していく。 今後の感染症拡大状況を見越して、所属拠点となっているアートスペースキムラASK?(東京)協力のもとでオンラインによる展覧会開催の技術構築にすでに着手している。上記の藝術制作の完成を秋に見越しており、早ければ秋にアートスペースキムラASK?にて対面・オンライン同時開催による公開を予定している。本研究とは別課題の研究と合わせたかたちで、オンラインによる国内外の研究者と連携した展覧会・シンポジウムも想定している。 また、1月には新潟大学旭町学術資料展示館にて企画展に採択されており、個展とシンポジウムによる本研究の成果公開を予定している。その他、開催時期は本研究課題終了後とはなるが、2つの企画展に招待が決まった(2022、諏訪市美術館;2023、ガレリア表参道いずれも長野県)。これらの展覧会でも本研究の成果の一部を公開することができる。諏訪市美術館においては一般向けのシンポジウムも開催予定である。
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Causes of Carryover |
今年度末に開催した展覧会の会期が年度を跨いだため、その開催諸経費支出の都合上、次年度額が生じた。また、本研究課題の成果となる共著書籍の企画が新たに採択され、その刊行時期が次年度となり、書籍の論文執筆にまつわる諸経費(著者間の会議、調査費など)としても使用する予定がある。 その他、感染症拡大の影響により、藝術制作のための表装師との連携が難しくなった。また、国内外の会議・シンポジウム等への参加が叶わなかった。これらにより想定していた旅費として利用することができなかった。これらの分を、今後の状況を見越して、オンラインによるVRギャラリーの技術構築をすでに進めており、そのための費用に使用する。VR併用で非公開形式または公開形式のシンポジウムも計画しており、開催諸経費にも使用する。また、今年度の研究過程でさらなる研究テーマの展開が見えており、当初の計画以上の充実のため、調査費(感染拡大地域へ(から)の渡航については十分に配慮する)として使用する。
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