2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K18494
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Research Institution | Chikushi Jogakuen University |
Principal Investigator |
宇治 和貴 筑紫女学園大学, 人間科学部, 准教授 (80613413)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | クイア / 仏教 / 親鸞 / ジェンダー / セクシュアル・マイノリティ / ダイバーシティ / 真宗 / 実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度にあたる2018年度は、クイア仏教学の構築をめざして「クイア」という言葉の理解に力を注いだ。「クイア」とはかつて侮蔑的な意味でセクシュアル・マイノリティ当事者に浴びせられていた言葉を、当事者が逆手にとり、差異をのりこえて連帯することで差別状況を転換する運動という意味がある。それともう一つ、男/女や異性愛/同性愛などの二項対立で規定されてきた様々な概念を否定的に捉え、性に関する現実の問題を契機としながら、既成の概念規定を脱却し克服していく論理を再構築していく学問という意味もある。こうした「クイア」な課題の克服を目的とした実践的な学問としてクイア・スタディーズが形成されつつあるということが理解できた。 こうした「クイア」的視点を仏教研究と融合させていくにあたり、現実的なクイア的疑問を想定することにした。なぜなら、クイアに代表される差別などの具体的な問題を考える場合、「仏教は無分別を説き差別を超越した宗教だから、教えとしては解決している」という意見や「仏教とは超越概念なので、現実の問題にはかかわらない」という意見をしばしば耳にするからである。 そうした意見に対して、クイア・スタディーズからはこのような問いが返されるはずである。「教えとしては解決している問題であるにもかかわらず、なぜ具体的な教団のなかで差別現象が存在し続けているのですか?」とか「具体的に差別が解消できていないのであれば、差別の解消にむけて仏教を再構築する必要があるのではないですか?」と。現実的な課題を前提とし、その解決のための論理の再構築を模索するクイア・スタディーズだからこそだされる貴重な問いだといえる。 今年度は以上のようにクイアという言葉の定義と、クイアスタディーズという分野について知ることができた。残された2年間で、さらに課題への理解を深めていきたいと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンフランシスコに行きアメリカ仏教会でのLGBTへの取り組みを視察することができた。ただし、アメリカのサンフランシスコでは物価が高騰しており2018年度の渡米機関が短期間に終わった。本来であれば、もう少し長期で滞在し、サンフアンシスコ仏教会でのLGBTに関する議論の様子を多く知ることが必要だったが、それができなかったことは反省点である。 日本におけるクイア研究に関しては、資料を集めることができつつある。2018年度は日本におけるクイア研究者の先人の方々と多く知り合うことができたことはことのほかの収穫であった。クイアに関しての研究は様々な分野で少しづつは始まってきているが、やはりそれぞれが所属する学会で孤軍奮闘しながら研究が進められているという話を伺った。挑戦的研究であるが故の宿命であるが、そうであるが故に研究の意義は大きいということを再確認させられた年度でもあった。 資料収集に関してはまだ完全ではないので、今年度以降も継続的に収集していきたい。研究者のネットワーク作りも進捗した。せっかくつながることができた研究者とともに、研究会を開催してクイア仏教学の意義を確立したい。仏教を研究する方のなかで、なかなか同一テーマに興味を持たれていらっしゃる方が少ないことも分かった。そうしたなか、龍谷大学で研究発表をさせていただいたのは大変貴重な経験となった。現時点での私自身の概念理解を明確化させ、今後の展望を整理しながら考える機会を作っていただいた。 また、LGBT支援コミュニティーを名古屋、大阪、東京で尋ねることができたのも収穫であった。当事者の方々の置かれている現状を、具体的に知り、仏教学者としていかにその現状に研究をもって関わるかを考えさせられた。今後も継続的に関係を持っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に多くの研究者と知り合うことができた。2019年度はせっかく知り合えた研究者の方々と研究会を開催することで、情報を共有しながら自らの研究を進めていきたい。 クイア研究の全身になるものが、ジェンダー研究であり、フェミニズム研究である。こうした研究所も多く仕入れることも今後の目標としたい。さらに九州でクイア研究を行っている研究者が少ないので、クイア研究者によるシンポジウムを行い、九州での認識の拡大を図りたい。 名古屋、大阪、東京のLGBTコミュニティーの方々とつながることができたので、今後とも継続的に訪問して新たな情報を収集する努力を重ねたい。2018年度は国会議員による、LGBT差別発言がおこり当事者のなかでも非常におおくの悲痛な声を聴くこととなった。こうした具体的に悲しいという声は、研究室に閉じこもっていても聞くことができない者だったと思うので、今後とも明日を運んでいきたい。 トランス女性への差別の顕在化も大きな課題である。人がなぜ、バイオロジカルなジェンダーにばかりとらわれるのかなど、解決すべき疑問は多くあるので取り組みたい。 なにより、仏教教団のなかでLGBTへの差別が存在している事実を知ったことは大きな収穫であった。今後は、こうした仏教教団のなかでの差別に焦点を合わせながらクイア理論を活用することで、いかに事態を解決することができるかを考察してきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は研究スタートが7月に入ってからであり、4、5、6月に行った研究が、本研究助成対象外となった。また、アメリカへの視察に関して、旅費などを自費で賄ったので研究費を次年度に回すこととなった。またスケジュールの都合により、アメリカ滞在が短期間であったことも費用消化が少なかったことの原因である。2019年度は2週間ほどの滞在ができるよう調整したい。
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