2020 Fiscal Year Research-status Report
Cross-genre Study of Kunikida Doppo's Expressions of News Reporting
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18K18498
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前島 志保 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 准教授 (10535173)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 国木田独歩 / 報道 / ジャーナリズム / 近事画報 / メディア史 / 出版史 / 写真 / リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の業績報告に述べたように、本研究は当初の計画を一年繰り延べる形で進めている。本年度は、当初二年目に計画していた作業、すなわち、1902年から1905年(明治35~38年)までの独歩の報道的記事の文章表現・視覚表現の調査・分析を主に行った。前年度に行った『近事画報』類の調査およびデジタルデータ化の作業(乱丁落丁の確認など)も引き続き行い、デジタル復刻版出版実現の第一歩とした。これは、本研究の基礎をなすとともに、定期刊行物のデジタル化があまり進んでいない日本のアーカイブ状況の改善に寄与し、今後、様々な分野における本資料を用いた研究の推進に貢献することが期待される成果である。 また、独歩のジャーナリストおよび編集者としての活動と報道的なテクストの考察を深めるべく、出版・報道文化に関する知見を得るための場として前年度に発足させた画報誌研究会とジャーナリズム研究会の活動を継続して行った。画報誌研究会は、若手から中堅の研究者を中心に組織され、この時期の日本および世界各地の画報誌・グラフ誌(紙)の事例や先行研究を学び合いながら、『近事画報』類を中心とした明治期から大正期にかけての日本の初期画報誌を調査・分析し、研究発表を行う会である。対して、ジャーナリズム研究会は、日本を含む世界各地における近代的ジャーナリズムの形成について学際的かつ地域横断的に学びあう場で、画報誌研究会の会員を運営委員とし、発表者を招待する形で開催している。コロナ禍という制約の中で、画報誌研究会を五回(4月、6月、9月、12月、3月)、ジャーナリズム研究会を三回(7月、9月、3月)(うち1回は国際ワークショップ)、リモート開催した。 さらに、以前から継続して行っている明治末期から占領期(昭和前期)にかけての出版・報道文化に関する研究も並行してすすめ、成果の一端を共著や研究会発表の形で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、本研究は当初の研究計画を概ね一年繰り延べる形で進めている。本年度は、当初二年目に行う予定だった作業(下記(1))の他、以下のような活動を行った。このうち、(3)(4)(6)の成果については、別記(「10.研究発表」)の形で公表した。 (1)独歩の画報誌編集者時代の資料収集と分析。;(2)独歩が編集に携わった『近事画報』類(改題雑誌『東洋画報』『軍事画報』を含む)の国立国会図書館、東京大学総合図書館、東京大学法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター(明治新聞雑誌文庫)、日本近代文学館など、各種図書館・資料館における調査。;(3)独歩が携わった「画報」というメディアへの理解を深めるため、画報誌研究会の設立・運営、およびそこでの研究発表。;(4)独歩がジャーナリストとして活躍した時代の出版・報道文化の理解を深めるため、ジャーナリズム研究会の設立・運営。;(5)『近事画報』類の解説付き復刻版刊行に向けた、出版社との話し合いおよび共同作業。;(6)継続研究課題である、明治末期から占領期(昭和前期)の出版・報道文化に関する研究成果の発表。 (1)(2)は本研究の基礎となる調査である。ただし、明治新聞雑誌文庫の改装に伴う休館やコロナ禍などのために一部やり残しが出てしまったため、以降も引き続き行うことを計画している。(3)(4)(6)の作業は、19世紀後半から20世紀前半の日本および世界各地における出版・報道文化を十二分に把握しつつ、独歩のジャーナリズム活動と彼の報道表現の分析を進めていくことを可能にする。(5)は、2021年度以降、解説付きデジタル復刻版の出版を進めていくことが既に決定しており、将来、本研究の成果を公表する手段の一つとなるとともに、近代日本の定期刊行物のデジタル化推進に寄与することが期待される。 以上から、本研究は概ね順調に進展していると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度(令和三年度)は、本来、第二年度に予定していた研究、すなわち、日露戦争後の1905年から病に倒れる1908年まで(明治38~41年)の独歩の報道的記事について、調査・分析する。具体的には、『近事画報』の編集手法とそこに掲載された記事のうち報道的なものを取りあげ、同時代の他の新聞・画報誌の記事と対比しつつ考察する。本年度までに完全には終わらせることの出来なかった1894年から1904年(明治27~34年)までの、新聞記者時代から画報誌編集者時代にかけての独歩の報道的文章の調査、および同時代の報道的文章と対比しつつ考察する作業も、引き続き行っていく。 また、これまでの調査から、独歩個人の報道活動以外にも、日本における近代的な報道の成立および視覚的な報道の展開という大きな課題自体も取り上げる必要性を痛感するに至った。19世紀後半から20世紀前半にかけての日本および世界各地の出版・報道文化の状況に関する理解を深め、上記のような資料の分析に必要な知見を得ることに努めるために、画報誌研究会およびジャーナリズム研究会の活動、および大正期から昭和初期にかけての出版・報道文化に関する研究を継続して行っていく。 コロナ禍の状況に鑑み、画報誌研究会・ジャーナリズム研究会は適宜オンラインで開催し、本研究の成果発表の場としても活用していく。このほか、これまでの研究成果の一端を国際学会(EAJSヨーロッパ日本研究会)でパネル発表する予定である。これら口頭発表された研究成果については、活字化を目指す。 さらに、『近事画報』類デジタル復刻版の刊行を実現するための準備となる作業、すなわち、『近事画報』類の調査とデジタルデータベース化も引き続き進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍で図書館・資料館を通常通り使用できず、十分調査を進めることができなかった。このため、未使用分を次年度に繰り越すことにした。 繰り越した予算は、当初第三年目に予定していた研究、すなわち、1905~1908年(明治38~41年)の『近事画報』の編集手法と独歩の報道的記事、および、同時期の新聞・雑誌における報道的な記事の調査のための費用(複写費、郵送費、データのデジタル化のための物品費)に用いる。また、本年度に完全に終えることの出来なかった作業、すなわち、独歩の新聞記者時代の活動に関する調査のための費用(複写費、郵送費、データのデジタル化のための物品費)にも用いる予定である。 加えて、本研究を通してその重要性に気付かされた、日本における近代的な報道の成立および視覚的な報道の展開という、より大きな研究課題にも取り組むため、先行研究の把握と新聞・雑誌を中心とした資料の調査のための費用(書籍代、複写費など)も必要となる。 さらに、学会・研究会における発表のための費用(通常開催の場合の旅費、オンライン開催の場合の機器購入のための物品費や通信費など)、シンポジウムや研究会の運営・開催のための費用(複写費、郵送費、謝金など)、活字化による出版のための費用(製本費、編集謝金など)にも充てたいと考えている。
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Remarks |
画報誌研究会(非公開研究会):4月、6月、9月、12月、3月に、合計5回リモート開催 ジャーナリズム研究会(公開研究会):7月、9月(国際ワークショップ)、3月に、合計3回リモート開催
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Research Products
(12 results)