2021 Fiscal Year Research-status Report
The Narrative Generation of Kabuki
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18K18509
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
小方 孝 岩手県立大学, ソフトウェア情報学部, 教授 (50293436)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 歌舞伎 / 物語生成 / 芸能情報システム / 統合物語生成システム / ポストナラトロジー / 物語ジャンル体系 / 私・物語 / 日本昔話 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績を以下の項目に分けてまとめる。 ①歌舞伎及びその物語生成に直接関連した研究:(1)引き続き舞踊『京鹿子娘道成寺』を題材とした研究を行い、特に道成寺伝説との関連についての調査・研究に基づいて、開発中のアニメーションを使ったシステム(道成寺物再現システム)を拡張した。その際娘道成寺の物語を「性愛」の物語として捉えるという観点を示し、純粋な愛から邪悪な愛に至る大きな幅を持つものとして両者の調査・分析を進めた。(2)歌舞伎の脚本(台帳)の体系的調査・分析に着手し、既に準備されている昭和初期以来の何種類かの脚本全集の構成を調査し、網羅的読解を開始した。(3)その他、従来からの諸研究(歌舞伎の構成要素、歌舞伎由来の物語理論等)を継続し成果を体系的な論文にまとめた。 ②物語生成システムに関連した研究:(1)日本昔話の構造研究(関啓吾ら)に基づき、数百の昔話の型をプログラム化し、統合物語生成システムと結合する研究を行った。(2)上記性愛の物語との関連で、生成した物語の中に性愛に関する用語・概念や表現を挿入するシステムを開発し、道成寺物再現システムや統合物語生成システムの一機能として結合した。 ③歌舞伎と物語生成システム研究全般の基盤及び応用に関する研究:歌舞伎を含む物語生成システム研究の体系としての「ポストナラトロジー」構想の全体像を一冊の本にまとめた。本構想の中で歌舞伎の研究は中心を占める。すなわち、ポストナラトロジーは主に日本の文学・芸能をはじめとする物語を中心に構成される構想であり、特に歌舞伎を物語・芸能その他の物語を体系的に集成するジャンルとして位置付ける。また、この構想の最終的な応用は、「物語生成システムを使った物語ないし拡大小説の制作」である。「拡大小説」は歌舞伎を大きな枠組みとする。現在『京鹿子娘道成寺』と道成寺伝説を使って、拡大小説の試作制作に着手している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」に示したように、関連文献を利用した研究や、システムの設計・開発に関連する研究に関しては順調ないしそれ以上の進展を見ているが、2020年度に引き続いて2021年度も新型コロナウイルスの流行とそれに関連する諸事情に阻害され、当初計画し、2019年度までは順調に進展していた歌舞伎や関連する芸能等の実地研究(歌舞伎等の演目のみならずその建築物や物語に関連する土地、博物館・資料館等を含む)を全く進められない状況であった。そのため、特に歌舞伎の構成要素に関する体系的研究のうち、劇場そのもの―その内と外―の調査・研究、歌舞伎の作品制作の個々の上演に即した具体的な調査・分析等、計画していた重要な研究を遂行することができなかった。また、歌舞伎の実地での調査や研究は、その種の直接的な部分だけでなく、文献的な調査・研究を行うに当たっても、その裏付けとして極めて重要である。以上のように、コロナ流行というやむを得ない状況が理由であるが、「やや遅れている」の区分とする。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画について以下に分けて概要を示す―①道成寺物再現システムの発展:アニメーションの質的向上、知識説明機構との結合の発展、ナレーションロボットのユーザインタフェースとしての利用等を通じ、システムを発展させる。②歌舞伎の構成要素の確定と調査・分析研究の発展:構成要素体系の再考・再編成と、より深く広い知識の導入を行い、その結果を何らかの形でシステム化する。③歌舞伎の脚本(台帳)の体系的な調査・分析:何種類かの脚本全集を網羅的に調査し収録作品を整理、実際に読みながらの歌舞伎の物語生成研究への導入方法の考案等の作業を行う。④歌舞伎由来の理論・方法の調査・分析:これまで、江戸時代の『作者式法戯財録』、『世界綱目』等の調査・分析、現代の渡辺保等の批評家・研究者の物語論的研究の調査等を行って来たが、今後は古典的な役者年代記、明治以来の批評や作品分析等に射程範囲を広げ、歌舞伎のナラトロジーとでも言うべきものの摘出を目的とした作業を進める。⑤実地での調査・分析:コロナとの兼ね合いになるが、各地での歌舞伎上演を通じた現場での演戯や演出の調査・分析、地方の小屋を含めた歌舞伎の劇場内外の調査・分析、博物館・資料館等での深い知識獲得、歌舞伎に所縁の土地等の調査・分析、等を通じて、歌舞伎の構成要素や脚本等その他の研究の基盤的な知識・知見を獲得する。⑥ポストナラトロジー構想の発展と歌舞伎の位置付け:その全体構想の中で、歌舞伎は日本の物語・芸能のいわば凝集点に位置付けられる。すべてがその中に含まれ得るという意味である。そのすべての中には物語の内容や主題も含まれる。⑦歌舞伎の物語生成研究を取り入れた拡大小説の制作:研究の応用として、「物語生成システムを使った物語作品」の試作制作に着手しているが、その枠組み・方法として、娘道成寺をはじめとする歌舞伎作品や、本研究から得られた諸知見を利用する。
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Causes of Carryover |
2020年度に引き続き2021年度においても、新型コロナウイルスの流行が収束しなかったため、本研究計画において最も重要な項目である、歌舞伎の実際の上演の調査、劇場等の実地調査、その他資料館等での調査等、現場での作業を必要とする作業が基本的にすべてできなかった。それらの作業は、旅費や宿泊滞在費等を含め、最も経費のかかる項目であるため、2022年度のためにまとまった金額を残しておく必要があった。 なお、共同研究に関わる打ち合わせや学会等における研究成果の発表は、この間もオンラインによって大きな支障なく行うことができたが、上記実地調査に関しては、実際に現場に行っての作業が必須であり、オンラインによる代替ができない。
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Research Products
(28 results)