2019 Fiscal Year Research-status Report
ニオイ物質オンサイト多点計測に基づく次世代文化財カビ汚染制御法の確立
Project/Area Number |
18K18526
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
竹内 孝江 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80201606)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 文化財保存 / カビ臭計測 / ニオイ計測 / 多点計測 / オンサイト分析 / IMS / イオン移動度 / カビ種判定 |
Outline of Annual Research Achievements |
文化財とその環境において、微生物、特にカビ(真菌)は、その胞子形成を介して塵と共に空中に拡散し、文化財表面に付着して増殖する。カビの大量増殖を一旦許してしまうと、現状の技術ではカビ汚染の制御が困難となる。従来法のほとんどがカビの発生を確認してからの対処法であり、温度、湿度のみをモニタリングするものである。本研究では、見えないところでカビが発生してもニオイであれば早期発見が可能であるとの考えから、ニオイの定点観測によりカビ生育の初期段階で揮発性有機化合物(VOC)をモニタリングすることによって文化財カビ汚染を制御する方法を開発している。2018年度に引き続き、Direct Analysis in Real Time (DART)を利用したアンビエントイオン化質量分析法により、カビが放出するVOCの化合物同定を行った。これは多くの場合、オンサイト分析に有効であったが、セスキテルペンにおいては異性化のために異性体間の区別ができないことがあることが分かった。そこで2019年度においては、ドリフト時間の差により異性体を識別できるイオン移動度(IMS)法を用いて、カビ臭を対象にカビ発生を検出する技術を開発した。個々の揮発性有機化合物(VOC)の成分量に帰着させる従来型の判別モデルではなく、IMSスペクトルデータ全体を利用し、各測定点を基準にした網羅的な組み合わせで、それら間の比率データを説明変数として追加した。これらにより、文化財環境において発生する頻度が高いカビ4種について、種類も同定可能な判別モデルを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画どおり、大気圧でオンサイトで効果があるDARTアンビエントイオン化質量分析法を利用した「カビ臭物質の検出方法」により、ニオイの定点観測によりカビ生育の初期段階でのモニタリングの方法を開発した。ドリフト時間の差により異性体を識別できるイオン移動度(IMS)法を用いて、カビ臭を対象にカビ発生を検出する技術を開発した。個々の揮発性有機化合物(VOC)の成分量に帰着させる従来型の判別モデルではなく、IMSスペクトルデータ全体を利用し、各測定点を基準にした網羅的な組み合わせで、それら間の比率データを説明変数として追加した。これらにより、文化財環境において発生する頻度が高いカビ4種について、種類も同定可能な判別モデルを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
我々のこれまでの研究により、セスキテルペン類の検出は真菌増殖開始期の指標になる可能性があることが予想された。そこで土壌由来真菌のモデルであるAspergillus nidulansの遺伝子変異株を用いて、遺伝子発現効率がより高いと予想されるAN3280遺伝子発現誘導株を新規に作成しその代謝物質をGCMS解析することにより、真菌Aspergillus nidulansのセスキテルペン生合成経路を検討する。さらに文化財収蔵庫のモデルとなる室内の空気の分析を行い、カビ臭の特定を行い、データベース化する。
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Causes of Carryover |
研究遂行に不可欠な質量分析計が壊れて修理が必要になり、2020年度配分額のうち40万円を2019年度に前倒し支払いをしていただいたが、修理費が見積額より少なかったため次年度使用額が生じた。本研究で年度前倒し支払いで不足する次年度分は、運営交付金で補充する予定であったが予定通り科研費で使用する。
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