2019 Fiscal Year Research-status Report
日米の相互関係による核イメージの構築・変容・社会的影響に関する研究
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18K18530
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
山本 昭宏 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70644996)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 核エネルギー / 日米比較 / 表象 / 言説 / 冷戦 / アポカリプス / 被爆者 / 原爆 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究は、①アメリカの大衆雑誌・大衆科学雑誌の調査、②アメリカとイギリスの1950~70年代のSFにおける終末のイメージの調査・分析、③戦後日本文化における核の表象の調査・分析、を行った。 ①については、2018年度から継続してニューヨーク公立図書館にて、大衆雑誌および科学雑誌の調査を実施した。とりわけ、2018年度には実施できなかった戦後1950年代までの調査を行い、原爆および被爆者の報道(被爆者のどのような写真が選ばれ、どのような写真が選ばれなかったのか)の実態を知ることができた。一方では、広島長崎の被爆については恐怖をあおるような記事があり、他方では以下②で挙げるような荒唐無稽なイメージを楽しむという両義性の一端を辿ることができた。 ②については、SF小説と映画における核のイメージを収集してリスト化し、読解した。得られた知見は次の三点である。第一に、人体および生物の変化(巨大化・縮小化)。第二に、ポスト・アポカリプスの道具立て。これらはすでに先行研究で繰り返し指摘されているが、そのイメージとジェンダーとの関わりを念頭に、作品を見直した。また、2018年度の調査で浮上した「核シェルター」に関する言説と表象が三点目である。SF小説と映画では、核戦争を「どのように」サバイバルするかをめぐる想像力が花開いていた。これら三点について論文化することが次年度の目標である。 ③については、2018年度に進めていた大江健三郎と核との関わりを含む追加調査を組み込み、書籍を発表した。また1970年代から80年代にかけての野坂昭如と佐久間稔の原子力発電所との関わりについて調査した。この調査の過程では、週刊ポストや週刊現代などの週刊誌および朝日ジャーナルにおける原発関連記事を収集することができた。さらに、2018年度に実施した広島のテレビドキュメンタリーに関する報告内容を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究業績の概要」で述べたが、日本の状況については計画以上に進捗した。その成果は、拙著『大江健三郎とその時代:戦後に選ばれた小説家』(人文書院、2019年9月)と、拙稿「企画趣意と『原爆が遺した子ら』内容紹介:小特集 テレビ・ドキュメンタリーと原爆小頭症」『原爆文学研究』(第18号、2019年12月)である。週刊誌の調査内容についても、拙稿で取り上げることができた。 他方で、アメリカとの比較(とくにSF小説・映画)は、計画通りとは言えない。すでに先行研究で言及されている作品や、言及がなくとも日本語訳が存在する作品については確認できたが、調査が一件キャンセルになったこともあり、十分な「発掘」ができていない。 前者が計画以上、後者が計画以下であり、あわせて「おおむね順調」とする理由である。なお、日米の比較については現在作業を進めており、報告の機会を待っているところである。これもあわせて、「おおむね順調」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、2020年度が最終年度であることを鑑み、調査は予備的調査にとどめ、研究発表に重点を置く。なお、5月にフランスで予定されていた国際研究集会の予定はキャンセルになった。これへの対応としては、現在新たな機会を探しているところであるが、見つからない場合は以下に述べるように、国内の研究会に切り替える。 次に、2020年度の研究発表の予定を述べる。 アメリカと日本の核の想像力の比較については、核シェルターとサバイバルに焦点を当てた口頭報告を、所属する研究会で行い、その内容を紀要に投稿する(なお、もし国際学会などで報告の機会を得られれば、この研究を報告する)。 核エネルギーの平和利用の想像力の日米比較についても同様に、所属する研究会で報告したあと論文化して、学会誌に投稿する。論文に取り込めなかった論点は、2021年3月に刊行予定の単著に組み込む予定であり、現在執筆中である。
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Causes of Carryover |
コロナウィルス問題により、東京での調査が実施できなかったため。
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Research Products
(3 results)