2019 Fiscal Year Research-status Report
系統解析手法を用いた知識の伝達・継承・変容・拡散に関する実証的研究
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18K18539
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 廉也 大阪大学, 文学研究科, 教授 (20293938)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 文化進化 / 知識の伝達 / 系統解析 / 継承と変容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、小規模な生業社会に生きる人びとを対象として、人びとの生きる糧である文化(知識・技術)の伝達・継承・変容・拡散のパターンを、生物遺伝学の系統解析で用いられる統計学的な方法を応用することによって実証的に明らかにすることである。本研究は、文化人から人へと伝達・継承される情報ととらえ、個人および集団の持つ知識のバリエーションをデータとして、生物学における系統解析の手法を応用することによって、個々の文化要素の伝達・変容・拡散に「親から子への垂直的伝達」「地理的近接性に基づく水平的伝達」「生態学的要因による適応的選択」という、異なる伝達経路がそれぞれどの程度寄与しているのかを具体的に明らかにすることを目的とする。 本年度は、主にエチオピア焼畑民に関するデータの分析を進めた。具体的には、エチオピアの焼畑民の植物に関する知識データベースをもとに、過去に実施した質問紙を用いた個人の知識に関するデータを整理し、統計的分析をすることによって個人属性(年齢性別および親族関係)との関係を吟味した。結果、(1)10代における知識の急速な獲得(2)20代以降の知識の緩やかな獲得(3)10代と20代以降の知識の獲得経路の差異(4)レベルの異なる知識において、知識の獲得プロセスが異なること(5)知識の獲得・喪失パターンが生業の性・年齢別分業と密接に関連していること、などが明らかになった。この成果については次年度に論文の形で発表する予定である。また、本年度はラオスにおいてデータ収集をおこなうこともできた。次年度中に分析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績概要に記載した通り、本年度はエチオピア焼畑民のデータ分析を中心として具体的に研究を進めた。エチオピア焼畑民の自然に関する知識について、とくに森の植物に関する知識のデータベースを整理し、それを個人の知識量データに関連づけて、性別年齢別の知識量の分布を明らかにした。 これらの研究結果は、論文として投稿し、現在査読中であり、次年度中には公表できる見込みである。この研究は、本研究プロジェクトのモデルとしての位置づけを持っており、今後は他地域(ラオスなど)・他の文化要素(土器や生業に関わる知識群)について応用していくことになる。以上から、初年度の研究として順調に進展していると判断でき、今後も計画通りに進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度に研究を試行したエチオピア焼畑民の植物知識に関する分析をモデルに、他の地域・他の文化要素についての研究に取りかかる予定である。今年度はラオスのデータの分析を進めるとともに、エチオピアで現地調査を実施し、土器に関する知識・技術のデータ収集をおこなう。エチオピア焼畑民の土器製作は、伝統的にほとんどの成人女性によっておこなわれ、その知識・技術は母親から娘への伝達(垂直伝達)を基本としつつ、他の年上世代からの影響(斜め伝達)や、隣人や異文化からの影響も受 けて継承・変容するものと推測できる。土器の器形・模様に関するデータを集積し、それを製作者の属性・系譜関係との関連で分析することによって、土器をめ ぐる知識の継承・変容の具体的様相を明らかにできるものと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度2月・3月に予定していたエチオピアでの調査が新型コロナ感染症のパンデミック化により中止となった。そのため、当初使用する予定だった旅費が次年度に順延となった。次年度、感染症流行の収束を待ってエチオピア調査をおこなう予定である。
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