2018 Fiscal Year Research-status Report
The posibilties of rimote education in highlands and nomadic areas
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18K18543
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 特任教授 (00203208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河合 明宣 放送大学, 教養学部, 教授 (90195024)
奈良 由美子 放送大学, 教養学部, 教授 (80294180)
石井 祥子 名古屋大学, 減災連携研究センター, 研究員 (30398359)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | モンゴル / モンゴル国立大学 / ホブド / 防災 / 遠隔教育 / ブータン / ブータン王立大学 / GNH |
Outline of Annual Research Achievements |
モンゴルは国土が広大で、都市部以外では今も遊牧が営まれている。モンゴルは、ソビエト連邦の援助の下に、1924年以来社会主義体制をとってきた。1990年からは、社会主義体制を廃し、市場経済化・民主化が進められてきたが、急速な消費経済の発展とともに、首都ウランバートルへの人口集中が急激に進み、中央と地方の間の経済と生活全般における格差が拡大している。生活における大きな格差のひとつが教育、とくに高等教育である。また、首都への一極集中は、環境の悪化をもたらし、災害のリスクを高めている。 地方の遊牧民は、経済的には一定の安定を得たものの、社会主義時代に保証されていた公共サービスを失い、ゾド(雪害・冷害)をはじめとする災害リスクを抱え、急激に変化する社会に関する情報の不足等に悩まされている。さらに、移動生活に伴い、子弟の教育も大きな問題となっている。 首都一極集中の抑制とともに、遊牧の伝統を維持しながら、上記のようなデメリットを補う有効な方法として遠隔教育があげられる。本研究計画は、放送大学の実績を活用し、遠隔教育の実現を目的として、研究と実践を行うものである。 モンゴル国立大学では、かねてから遠隔教育の推進を決め、付属スタジオを整備し、その実現に向けて模索を続けてきた。しかし、技術とシステムに関するノウハウが不足している。そこで本研究計画では、JICA草の根技術支援事業「モンゴル・ホブド県における地球環境変動に伴う大規模自然災害への防災啓発プロジェクト」(代表:鈴木康弘)と連携して、地方の現状を調査するとともに、防災啓発のためのコンテンツの制作を試み、その準備を進めてきた。また、効果的な遠隔教育の実現のために、放送大学の技術とノウハウを提供し、スタジオの整備に協力してきた。研究と技術移転の準備は順調に進展し、モンゴル国立大学における遠隔教育の実現が現実のものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画においては、上記のJICA事業と連携しながら、地方(特にモンゴル西部のホブド県)における都市・遊牧社会の生活状況、自然災害、防災意識等の現状に関する現地調査を行うとともに、モンゴルにおける遠隔教育の実現に向け、モンゴル国立大学による遠隔教育の実現のためのサポート態勢の構築を推進してきた。調査研究の業績としては、<石井祥子、奈良由美子、稲村哲也、高橋博文、スヘー・ボトトルガ、鈴木康弘2019)>としてまとめた。 モンゴル国立大学による遠隔教育実現のための実践活動として、放送大学の技術スタッフとともに、モンゴル国立大学の付属スタジオの整備への支援と担当技術者への技術移転を行ってきた。また、遠隔教育の実施のための具体的な教科のコンテンツとして、「防災」をテーマとするコンテンツの制作を進めてきた。 モンゴルでは、世界最大の活断層があり、数十年を周期とするM7レベルの地震が発生し、近年は首都周辺でも地震活動の活発化が指摘されている。これまで、伝統的な遊牧の生活様式では被害がなかったものの、急激な首都への人口集中と高層ビルの建設により、震災リスクが高まっている。モンゴル教育省は、大学教育における「防災教育」の義務化を決定したが、その内容には課題が多く、その標準化のためにも遠隔教育への期待が高く、防災コンテンツ制作とそれによる遠隔教育試行の意義は大きい。 モンゴル(遊牧社会)以外における遠隔教育に関しては、ブータン(山岳地域)において、研究分担者の河合明宜が中心となり、放送大学とブータン王立大学との間で包括協定を締結し、GNH(国民総幸福量)等をテーマとする教材コンテンツ制作を進め、遠隔教育のシステム化を推進してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、モンゴル国立大学と放送大学の包括協定が締結される見込みであり、その一環として、付属スタジオの整備、コンテンツ制作の技術と遠隔教育システムのノウハウを提供し、防災を中心としたコンテンツ制作を進め、遠隔教育の実現に向けて具体的で確実な一歩を踏み出す見込みが立っている。 ブータンでも、すでにコンテンツ制作が進んでおり、遠隔教育実施が実質的に進行しつつある。放送大学の実績を活かした、遊牧社会・山岳地域における遠隔教育は、現実のものとして着々と準備が進んでいる。 今後は、上記の遠隔教育の実現・充実のための研究・実践をさらに推進するとともに、ニーズや課題を整理し、他の途上国で適用可能な遠隔教育のモデルを構築することが重要となる。 そのための準備として、ネパールなど他地域における可能性についての調査を開始している。ネパールも、ブータンと同様にヒマラヤの国であり、北部の険しい山岳高所、南部の亜熱帯森林地域などの多様な自然環境のなかに50を超える多民族を擁する国であり、遠隔教育のニーズは極めて大きい。また、途上国における遠隔教育大国であるブラジルにおいて、マトグロッソ連邦大学との共同研究も行った。その成果は<稲村哲也2019年3月「『私たちはどこからきたのか、私たちは何者か』―多文化共生のための人類学的視点:マトグロッソ連邦大学との遠隔教育協働研究から―」放送大学研究年報36:79-92>にまとめた。 今後の研究の推進方策としては、上述のように、途上国における遠隔教育の開発モデルを構築するとともに、それぞれの国の特性にあった遠隔教育システムのあり方を研究していくことも重要な課題である。
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Causes of Carryover |
年度末に予定していモンゴル調査の旅費を他の予算で執行したためである。2019年度に、調査旅費等として有効に活用する。
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Research Products
(3 results)