2018 Fiscal Year Research-status Report
日本とロシア間の環境協力の推進と国際法学の役割―法規範・政治・科学の関係を考える
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18K18549
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
児矢野 マリ 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (90212753)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 日本とロシア / 北東アジア / 環境協力 / 国際法学 / 法規範と政治と科学 / 海洋環境の保全 / 渡り鳥の保護 / 北海道 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究体制及び研究基盤の構築に努め、実証分析のための方法論の検討と理論的基盤の構築に着手した。第一に、研究のための施設基盤として、文献収集と主にフィールド調査のための機材(携帯用の電子機器など)の整備を行った。第二に、日露含む北東アジアの国際関係で通用する法・規範モデルの構築のための第一歩として、特に環境分野及び日露間で重要な部分を占める漁業分野を意識して、研究協力者を含む国際関係論の研究者との対話(日本の環境外交に関する研究会への参加:8月、アジア諸国の環境ガバナンスに関する研究会合への出席:9月、海外研究者含む漁業外交の専門家との勉強会の開催:1月など)及び環境・漁業外交の実務家との意見交換(国際シンポジウムへの出席:9月)を行った。これを通じて、北東アジアを含む日本の外交の実態について理解し、その文脈において環境・漁業分野の外交および日露間の協力関係の意義を相対化し、本研究課題の理論的位置づけにかかる作業に着手した。そして、北東アジアにおける国際法の意義を再評価するため、以上のプロセスにおいて、国際法の役割に関する分析も、部分的ながら試みた。第三に、社会科学と自然科学の問題意識の摺合わせを行い、実証分析方法の開発のための作業に着手した。これは、研究協力者である自然科学の専門家との勉強会(札幌:11月)を通じて、昨今における日露間の環境分野での学術的な協力の進展度や、政府間の専門的対話(日露生態系保全プログラムの会合など)の実態について一定の知見を得た。また、その現状における問題点と将来に向けた実践的な課題の抽出を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、初年度となる本年度においては主に四つの目標があった。すなわち、①本研究に必要なロシア語文献を含む基礎文献の収集と、フィールドワークのための基盤整備、②国際関係論・国際政治学等の最新の知見を踏まえ、新たな発想から、日露を含む北東アジアの国際関係で通用する法・規範モデルを、特に環境分野を意識して構築すること、③社会科学と自然科学の協働のため、問題意識を摺合わせ、認識枠組・基礎概念を共有し、分析方法を開拓すること、④将来の本格的な分離融合型研究の立上げを視野に入れ、日露両国の研究者・実務家を含む関係者と機能的なネットワークの構築に着手すること、であった。 しかし以下の理由により、今年度は以上四つの目標の達成度が低かった。まず、調査を進めるうちに領土問題含む地域の安全保障問題が、予想以上に日露間の経済開発及び環境協力のあり方に深く関わっていることがわかり、これについても分析を進め、先に見通しを得ておくことが研究の効率的遂行のため必要と判断されたこと、さらには、これにかかる分析結果を北東アジアの国際関係で通用する法・規範モデルの構築作業に組み込むことが不可欠であることがわかったことから、当初想定していなかった作業を行うことになったため、上記②を完遂できなかった。次に、ロシア極東地域の現地調査では前述した点にも十分に留意することが不可欠であり、それゆえに準備不足でロシア現地調査を実施できなかったことから、④のうちロシア側については当初の想定通りに進まなかった。さらに、①についても、言語の問題もありロシア環境政策・ロシア法の文献の収集及び整理には相当の時間がかかるところ、前述した追加的作業の必要から、文献の収集及びロシア語翻訳にかかる作業を十分に実施することができなかったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
主に六つの方策を進めていく。第一に、今年度追加的に行うことになった領土問題含む地域の安全保障問題の要因にかかる分析を掘下げ、その結果を、日露を含む北東アジアの国際関係で通用する法・規範モデルの構築に組み込む。そのプロセスでは、国際関係論・国際政治学を専攻する研究協力者との十分な議論を行う。また、昨今紆余曲折している日露間の領土問題交渉の動向も注視し、検討を進めていく。第二に、その結果も踏まえ、複数回に及ぶロシアの現地調査を実施するとともに、可能であれば日露生態系プログラム関連の国際ワークショップを傍聴し、日露の研究者・実務家を含む関係者とのネットワークを拡げていく。第三に、研究協力者との協働を本格的に展開させ、彼らの助言を得て関連する自然科学系の学会(鳥学会など)にも参加して、既存の民間イニシアチブ(学術交流・共同研究・合同調査等)を発掘し、実績なども含めて分類・整理する。第四に、遅れているロシア環境政策・ロシア法の文献の収集及び整理を加速させる。これは、ロシア語翻訳にかかる作業も含む。今年度の教訓から、札幌市在住のロシア法に詳しい弁護士である研究協力者の支援を積極的に仰ぐ。第五に、それも踏まえてロシアの主要な関連国内法・政策を調査し、それと日本の相応する関連国内法・政策と比較検討する。第六に、上記第三、四及び五の作業を進めながら、基礎的資料としてそれらに関するデータベースの作成を開始する。ここでは研究予算を用いて外部業者を活用するなど、作業の効率化を推進する。本研究は、研究対象、範囲及び方法・アプローチともに挑戦的であり学際的な視点が欠かせないことから、以上の全ての作業において、主たる研究協力者に加えて、これまで構築してきたネットワークを活用し、さまざまな関連する分野の研究者や実務からいろいろな形で協力・支援を仰いでいく。
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Causes of Carryover |
今年度の調査の結果、領土問題含む地域の安全保障問題が、予想以上に日露間の経済開発及び環境協力のあり方に深く関わっていることがわかり、北東アジアの国際関係で通用する法・規範モデルの構築作業に並行して、これについても分析を進め、先に見通しを得ておくことが研究の効率的遂行に資すると判断した。また、ロシア極東地域の現地調査では、この点についても資料収集やインタビューなどの調査をする必要があることがわかったが、そのためには誰に対して、どのようなインタビューを試みるかといった点について、今しばらく時間をかけて慎重に決定するのが適切であると思われた。そのため、当初今年度に予定していたウラジオストックの調査を次年度に延期し、海外調査旅費及び現地通訳等に使用する予定であった予算を残すことになった。さらには、研究計画作成当初に予想していた本研究にとり有益な海洋学・生態学・渡り鳥に関する文献・資料があまり刊行されなかったこと、また、上記の追加的作業に相当の時間をとられロシア環境政策・ロシア法の文献の収集及び整理に想定以上に難航したことから、それら文献の購入費用に加えてロシア語文献の翻訳料に残額が生じた。 次年度には、延期したロシア現地調査のための出張にかかる費用ととともに、本格的なロシア環境政策・ロシア法の文献の収集及び整理のための費用(購入及びロシア語文献の翻訳経費)として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)