2019 Fiscal Year Research-status Report
ナラティヴ・アプローチによるオープンイノベーションの効果的実践プロセスの解明
Project/Area Number |
18K18564
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
宇田川 元一 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70409481)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒澤 壮史 日本大学, 商学部, 准教授 (10548845)
佐々木 将人 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (60515063)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | イノベーション / ナラティヴ / 対話 / オープンイノベーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、主に大手企業を想定しながら、オープンイノベーションがどのように推進されているのか、あるいは、どのように推進できるか、という実践的観点を考察することを目的としてきた。その上で臨床心理や医療の領域で展開されてきたナラティヴ・アプローチの知的な蓄積をどのように応用していくのか、という点に基軸を置きながら研究を行っている。 昨年度は、主に、ナラティヴ・アプローチが基盤としている対話(dialogue)が、どのように企業組織において展開可能か、ということについて研究を重ねてきた。この中で、企業組織において、組織の部門間や階層間にある基盤とするナラティヴ(解釈の枠組み)の隔たりが、様々な施策や発見された事業機会の推進において障害になることを指摘し、ここに対する対話的な取り組みの重要性を指摘した。 これまでの研究から、日本におけるオープンイノベーションは有用な研究事例が極めて限られており、むしろ、大手企業におけるイノベーション一般を対象としつつ、考察をすることによって、当初の研究目的にむしろ接近できるのではないかと考えている。従って、上記のナラティヴ・アプローチの対話的な観点をベースにしながら、具体的に企業内においてイノベーションを推進する上で、どのようなナラティヴの隔たりがあり、それをどのように架橋していくことによって、イノベーション推進が図られているのか、ということを解明する必要がある。なぜならば、オープンかクローズドかという以前に、イノベーションの推進は組織内や組織間におけるナラティヴの隔たりにアプローチしなければ全く実践することができないからである。 今後はこうした点を中心に研究を行う必要があると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他分野で展開されてきたナラティヴ・アプローチを基盤としつつ、それを企業組織の実践、とりわけ、オープン・イノベーションの推進の実践とどのように整合的なものとして位置づけるのか、ということについて、これまで研究を行ってきており、また、その中でいくつかの事例についてインタビュー調査などを行ってきた。 ここから見えてきたことは、日本企業においては、オープン・イノベーションの推進以前に、イノベーション、ないし、当該企業における新規事業開発においても相当大きな課題を抱えており、実際には有効なオープン・イノベーション事例は極めて限定されているということでさる。従って、この点についてはオープン・イノベーションに限定せず、企業内のナラティヴの隔たりに着目する必要がある。 調査の中で見えてきたことは、基本的に新規事業開発やイノベーション推進への取り組みは、企業内で継続的に資源配分を受け続けることは相当に困難であり、この点に対して社内において資源配分決定者に対して、イノベーション推進者が対話的にアプローチすることが必要であろう、ということである。 一方で、より詳細にその対立/共生関係がどのように形成されているのかについては、まだ調査からは見えておらず、これは今後掘り下げなければならない課題であると考えており、次項でも記入する通り、2020年度はそうした点にフォーカスしながら研究を行っていく必要があると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、これまでの研究から、ナラティヴ・アプローチを企業組織においてどのように実践するのかということが、研究課題を紐解いていく上で一つの鍵になるのではないかと考えている。しかし、実践に至るためには、まず、企業組織において、イノベーションの推進を行う上で、どのようなナラティヴの隔たりが生じているのか、ということを丁寧に解き明かす必要がある。 この後者の解き明かすべき課題に対しても、ナラティヴ・アプローチをうまく用いた調査方法が無いかと考えており、今年度は、そうした関係者への対話的なアプローチを用いた調査方法を活用しながら、調査を進めていきたいと考えている。 これは研究としては、かなり挑戦的なユニークネスに至る可能性もある。すなわち、研究フィールドと研究者とが、旧来のインタビュー調査であれば情報提供者/情報受信者対話的な関係として捉えられていたことに対して、研究者自身も研究フィールドに半ば参入しつつ、介入的な対話を通じて研究調査を実施するということを意味する。 無論、こうした挑戦的な取り組みは、フィールドを確保することにおいても、また、調査成果を得るということにおいてもリスクはあるものの、本研究区分としては、萌芽的な取り組みとして積極的に挑戦をしていきたいと考えている。 こうした介入的な研究調査の実施を試みることを通じ、日本企業に置いてイノベーション推進がなぜ難しいのか、また、その点に対して何らかの打開策は考えられるのかを明らかにすることを試みると同時に、経営学研究者と研究フィールドとの新しい関係性の構築にも取り組みたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延の影響で、海外現地法人におけるイノベーション推進の取り組みについての調査を行おうとしていたものがキャンセルになってしまったこと、データベース購入を次年度に持ち越したことが主たる要因である。今年度も調査実施は実質的には不可能ではないかと考えられるため、調査対象を変更して研究を遂行したい。また、データベースの購入については、本年度実施することとする。 使用計画としては、オンラインでの調査の推進が不可欠であり、そのために必要な機材の調達と、状況を踏まえつつではあるものの、可能な限り必要な国内出張は行い、調査を進めていきたいと考えている。 また、新型コロナウイルスの動向次第で、十分な調査が行えない場合は、期間の延期を申請して、研究遂行を検討する必要があるが、当面は、国内調査とそのために必要な文献研究を中心に実施していくこととする。
|
Research Products
(4 results)