2021 Fiscal Year Research-status Report
Construction of <A Theory of Capability Justice> based on Trans-disciplinary Perspective
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18K18569
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
後藤 玲子 帝京大学, 経済学部, 教授 (70272771)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | ケイパビリティ(潜在能力) / 正義 / 公共性 / 異分野越境 / 社会科学の哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はトランスディシプリナル(異分野越境的:福祉・医療政策学系、市民工学系、脳情報科学系、経済学系など)な視点を結び合わせることにより、ケイパビリティアプローチ(潜在能力)に基づく正義理論を構成する途を探った。ケイパビリティアプローチ(潜在能力)は、自然科学を模範とする近代経済学から生まれ、人文社会科学の豊かな土壌のうえで花開いた。その特徴は、個人の行為主体的自由と多様性を尊重しながら、個人を規定する客観的な潜在能力(capability)をとらえる点にある。それにもとづく正義は、多様な制約条件下におかれた個人が、だれであれ「本人の選ぶ理由のある生を生きる」自由に向かう。それは難病・重度身心障害・虐待被害・心的外傷・社会的孤立・復讐連鎖、多様な制約条件をもつ個人の自由のありかを問い、それを保障する社会の探究へと向かう実践的視座をもつ。 しかしながら、それは次の3つの方法的難問ゆえに、その理論的な定式化や実証的研究は困難だとされてきた。すなわち、〈1〉多次元機能集合としての潜在能力を(個人内・個人間)比較評価しうるのか。〈2〉観測された選択(達成)点から観測不可能な潜在能力を頑健的に推定できるのか。〈3〉潜在能力を構成する多次元機能リストは一般的・普遍的に定められるのか。 本年度の第一の成果は、アジア・USA・欧州の3つのネットワークの協同でPhilosophy of Social Science学術雑誌特別号編集(2021年3月に一橋大学とPhilosophy of Social Science学会が共催した国際会議の特集号)を編纂したことである。本年度の第二の成果は、ケイパビリティ哲学を柱として、脳科学・精神医学・神経経済学と、社会科学が協同研究を行う新たなシーズを蒔いたことにある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行により、オンライン開催を余儀なくされたうえに、研究者の招聘・参加が困難となったことが大きい。当初予定していた研究者 の約半分について、研究報告と討議の機会をもつことができなかった。とはいえ、上述したように、2021年3月にオンラインで実施した国際コンファレンスをもとにPhilosophy of Social Science雑誌の特集号を編纂したことは大きな成果だった。さらに、ケイパビリティ哲学を柱として、脳科学・精神医学・神経経済学などの自然科学と、経済学・社会学・人文学など社会科学が協同研究を行う新たなシーズを蒔いたことは大きな成果だった。
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Strategy for Future Research Activity |
「社会科学における実証性とは--」&「尊厳とリベラリズム」をテーマとする英文書籍をつくる計画が進行中である。国際シンポジウムをオンライン上であれ開催し、個別専門的な論点についてはもちろんのこと、社会科学の方法的検証を通して、次の3つの難問に対して暫定的解答を用意する。すなわち〈1〉多次元機能集合としての潜在能力を(個人内・個人間)比較評価しうるのか。〈2〉観測された選択(達成)点から観測不可能な潜在能力を頑健的に推定できるのか。〈3〉潜在能力を構成する多次元機能リストは一般的・普遍的に定められるのか。加えて、脳科学・精神医学等の本格的な協同研究を開始する。主要なテーマは人々の正義感覚とそれにもとづく公共的相互性の世界である。
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Causes of Carryover |
年度末の国際シンポジウムを中心として、いくつかの国内外セミナーを企画していたが、Covid-19の影響により、計画通り遂行することが困難であったため、繰り越すこととなった。本年度は、次のような執行計画を立てている。第一は、昨年度、計画していた国際シンポジウム「社会科学における実証性とは--」に向けて、国内外のセミナーを複数回、開催するための経費。成果は英語の書籍として刊行する。第二は、脳科学・精神医学等の本格的な協同研究を開始するための経費。主要なテーマは人々の正義感覚とそれにもとづく公共的相互性の世界である。
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