2018 Fiscal Year Research-status Report
Policy Simulation based on Field Experiments combined with Medical Database in Newly Emerging Economies
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18K18579
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
島村 靖治 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50541637)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 農村フィールド実験 / 医療データベース / 政策シミュレーシ ョン / ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ベトナムにおいて、特に財政面での医療保険制度の持続可能性に焦点を当て、問題の抜本的な解決策として地域未利用資源を活用した農法改善事業のフィールド実験を行い、その事業評価手法と政策シミュレーションについて新たな提案を行うことを目的としている。初年度である2018年は、現在、個人ベースである医療保険制度が、家族ベースに変更になることを想定した仮想質問により、家族全体で医療保険に加入するためにどれだけの支払い意思(Willingness-to-pay)があるのか?そして、支払い意思額に関連した要因はどのようなものであるかを分析した論文を公刊した。ベトナムでは政府が政策的に医療保険制度を個人ベースから家族ベースへ切り替えること計画しており、本研究の分析結果が示す政策インプリケーションは実務的に極めて重要である。そして、分析のなかでは、特に、保険の適用対象となる医療サービスを受けることのできる一次レベルの村落医療施設における医療サービスの質がどの程度、保険料の支払い意思と相関しているかを検証している点がこれまでの同様の研究にはない新たな視点である。分析結果は一次医療施設における病気に関するコンサルテーションに対する満足度が保険加入への支払い意思額と正に相関していることを示しており、一次医療施設のおける医療サービスの質の向上が保険加入率の向上および保険制度の財政的持続可能性にとって非常に重要であることを示唆している。今後は、こうした医療保険に対する支払い意思額の分析を基礎として、地域未利用資源を活用した農法改善事業のフィールド実験の実施を計画している。そして、最終的にはそうした農法改善事業の事業評価を行う計画であるが、その際には医療保険加入に対する支払い意思額がどのように変化するかについても検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況であるが、概して計画通り進行している。初年度である2018年は上述のような医療保険に対する支払い意思額の分析を行い論文を公刊しつつ、有機農法に関する技術の普及についての研究も進めている。技術の普及については、農業技術普及員によるフォーマルな技術研修を通じたルートに加え、友人や知人を通じた情報の伝搬というインフォーマルなルートを通じた知識、技術の伝搬が考えられる。現在進めている研究では、こうした2つのルートのうち、どちらがより効果的に技術の普及に役立っているかを検証している。また、特にインフォーマルなルートについては、夫と妻の社会的なネットワークのどちらが農業技術の普及にとってより重要かというジェンダーの視点からも分析も行っている。 更に、ベトナム中部の農村で近年急速にその普及が進んでいるKH1という新しい品種のコメの導入についての研究も進めている。有機農法に関する研究と同様に、フォーマル、インフォーマル、両方のルートを通じた技術普及について分析を進めているが、これまでに農業技術普及員による技術研修は新しい技術を初めて導入する際に効果的である一方、翌年にも継続してその技術を使い続けるかについては友人や知人の行動を参考にしていることが明らかとなった。 こうした研究はベトナム中部の村で実施してきた現地調査により得られたデータを用いて分析を行っている。そして、技術普及の関する研究に加え、農法改善事業の人々の健康状態に与える影響についても研究を進めている。有機農法の導入は化学肥料の利用を減少させることが期待される。また、KH1は収量を保ったまま農薬の利用を減少させることができる新品種だとされている。こうした新しい農法がどれだけ人々の健康状態を改善するのかについても研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで無駄になっていた地域未使用資源を活用した食物の質の改善事業に着目していく。具体的には、養鶏における技術の改善を考えている。地域未使用のハーブ供与により鶏の食欲を増進させ鶏卵の栄養価の改善と鶏肉の生産性の増加を図る。こうした農法改善事業の実施の結果として、自給自足による健康改善効果と市場販売を通じた所得向上による住民の栄養状態の改善効果が期待できる。 本研究では、ベトナム中部の村で2つの異なるフィールド実験を行う。ひとつはランダム化比較試験(RCT)である。上述の新しい農業生産技術をランダムに選ばれた人々にのみ教える。RCTより農業生産技術を導入した家計とそうでない家計を比較することが可能となり、どの程度所得が向上するのか、健康状態の改善が図られるのか、罹患率が減少するのか、厳密な意味での因果的効果を測定することができる。そして、もうひとつは、村のリーダーなど特定の個人にのみに教える実験である。この実験と村の悉皆調査から新しい農業技術に関する知識伝播についての空間ネットワーク分析が可能となる。 本研究は、ベトナムの農業大学と医科大学と連携して行う。既にフエ農林大学とは複数年に渡る協力関係にあり、信頼関係の構築もできており、フィールド実験の準備も進めている。また、フエ医科薬科の協力により、通常では取得が難しい医療データベースへのアクセスが可能になっており、現在の疾病・疾患の傾向、発症頻度、現在の医療費を把握することができる。それらの情報とフィールド実験の結果を合わせることにより、1)疾病・疾患の発症頻度の低下・改善予測、2)それに伴う医療費削減の規模予測、3)国家レベルで将来の医療費負担の規模の推測を行うことを計画している。
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