2021 Fiscal Year Research-status Report
進化論的アプローチによる新しい学習研究プログラム:医療現場の実証研究を通じて
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18K18584
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
三橋 平 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (90332551)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳川 城治 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (80348945)
三橋 立 順天堂大学, 医学部, 准教授 (50286720)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 経営学 / 組織学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、組織学習のロジック、考え方を用いて医療現場における問題解決や、その現象を理解することを目的としている。学習のロジックとは、(1)組織メンバーの行動、特に変革を伴うリスク・テーキング行動が発生する条件の1つは、過去の行動に対して負のフィードバックが与えられることである、(2)負のフィードバックとは、成功、失敗の内、後者を指し、場合によっては希求水準と実際のパフォーマンス差によって測定可能な場合もある、(2)負のフィードバックは、新たな行動様式・ルーティーンの探索を開始する契機となる、(3)探索は必ずしもパフォーマンスの向上をもたらすとは限らない、そのため、向上が確認されると探索停止となる。この学習のロジックには以下の前提が(非明示的に)設けられていることが明らかになっている。その前提とは、(1)フィードバックの判定が明確にできること、しかし、フィードバックが常に可視化されているとは限らない、また、複数のパフォーマンス指標が使用される場合にはどの指標を用いるべきかを合理的に判断できない、複数の指標間が整合的でない場合がある、(2)フィードバックのタイミング、フィードバックが遅延して発生する場合には、行動と結果のリンクが不明瞭となり必ずしも行動変容につながらない、(3)原因の明瞭性、負のフィードバックを受けた後の探索においては、その結果をもたらす原因が明瞭である必要があるが、そうではない機会も少なくない、(4)複数変革の同時進行、実際の組織では1つ1つの施策を実験しつつ問題を解決するのではなく、同時に複数の施策を行う、そのため、解決策の効果が識別できず、次の機会に同類の問題が発生した際に何が有効かが分からない。本研究では、学習のロジックを踏襲しつつも、そのロジックが前提としている議論に着目し、その前提に関する理解を深めることで学習理論を発展させている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍発生の影響により、共同研究者が所属する医療機関への訪問や現地でのデータ収集が難しくなり、計画していた研究スケジュールとは異なる進度での研究活動を余儀なくされた。そのため、研究体制の見直しが迫られたり、また、学会の開催形式が変更になったため、研究を進める上でのマイルストーンを失ったことも原因である。しかしながら、その一方で、コロナ禍はパンデミックが医療現場に与える影響を測定するに適した実証コンテクストを提示した。そこでサブ課題の1つをコロナ禍に関連したものに設定し直すことで、進度上の危機を機会へと転化した。 研究課題は2つのサブ課題に分かれている。1つ目は、Door to CTと呼ばれる脳卒中患者(もしくは、脳卒中と疑われる患者)が緊急搬送された際、初期の医療行為がCTスキャン撮影である。Door to CTとは、病院到着からCTスキャン撮影開始までの所要時間を指す。脳卒中患者の場合、迅速な医療提供が致死率だけでなく、回復後の障害レベルにも影響を与える。そのため、医療行為全体の所要時間短縮は重要なテーマであり、中でも、全ての患者が対象となるCTスキャン撮影プロセスにおける時間短縮による効果は大きい。本サブ課題は、Door to CTの時間を計測し、これを単にフィードバックする、また、フィードバックの形態に変更を加える、という低コストな介入を行うことでの時間短縮効果を測定している。いくつかの学会発表を通じてデータの分析方法に変更を加え、論文を採択された。 2つ目の研究については、今後の研究計画とも関連するため以下でまとめる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、2つ目の研究を進めることである。これは、コロナ禍を自然実験における介入と見立て、それが急性期の脳卒中患者に対する治療の遅延にどのような影響を与えているのかを測定するものである。パンデミック発生後の2年間で、遅延に対する影響を報告している事例は約30件見つけられた。しかし、これらの研究は、都市ロックダウンが搬送件数に与える影響を測定するような比較的短期的データを用いたものが多く、1年データを用いていた事例は2件であった。我々は後発の利を活かし、パンデミック発生後の2年間のデータを使用、さらに、比較対象とした2019年期間のデータも合わせると3年間のデータを使用した。遅延が発生しているかどうかは、Door to CTに加えて、発症から来院まで、来院からMRI、来院から血栓溶解療法まで、来院から穿刺までの時間を用いた。1病院のみのデータを使用したため、穿刺までの件数は比較的少ないが、統計的検定を行えるデータ数は確保できた。比較には、2019年の各月のデータをベースラインとして用い、パンデミック期間の各月のデータをトリートメントとして用いた。これは、脳卒中の季節性や、冬季では治療前の脱衣に時間がかかることを考慮したためである。現在は、この2つの期間のデータ比較を行った検証結果を論文にまとめ、投稿している段階である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍発生の影響により、共同研究者が所属する医療機関への訪問や現地でのデータ収集が難しくなり、計画していた研究スケジュールとは異なる進度での研究活動を余儀なくされた。そのため、研究体制の見直しが迫られたり、また、学会の開催形式が変更になったため、研究を進める上でのマイルストーンを失ったことも原因である。今後の使用計画としては、論文採択へ向けて追加分析、論文校閲などの準備プロセスに使用する予定である。また、可能であれば学会発表を行いたい。
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