2019 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会の構造と主観的格差の関係についての実証研究
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18K18589
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
横溝 環 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20733752)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 主観的格差 / PAC分析 / 多文化社会 / ひとり親(母子家庭) / 自由 / 責任帰属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多文化共生の対象を国籍や民族に限定せず、個人の感じる主観的格差を多面的、流動的、重層的に解釈していくことで、多文化共生社会に対する新しい指針を示していくことを目的とする。 今年度は、まず昨年度PAC分析を実施した「ひとり親(母子家庭)」の子ども6名の調査結果を分析した。その結果、(1)経済的格差が“存在する”ことと、それを格差として“感じる”ことには差異がある、(2)経済的格差を感じるか否かと自分のやりたいことが自由にできる環境があると捉えているか否かとは関連がある、(3)比較的恵まれた立場にある者は、自分が非当事者である格差を俯瞰する傾向がある、(4)個人が感じる格差は多様で流動的かつ重層的である、(5)世間から不本意なラベルを貼られたことに負の感情を抱いた者は、“個/素になる自由”を求める傾向がある、という示唆が得られた。 次に、「母子家庭」に焦点を当て、その世帯を構成する全家族(母、長男、長女)を調査協力者としPAC分析を行った。その結果、母親と長男とでは貧困の責任帰属が異なっていること(母親は責任帰属を社会にしているが、長男はしていない)、長男(兄)と長女(妹)とでは「自由」の解釈が異なっていること(兄は「機会の平等」「孤独」、妹は「個の尊重」)が示唆された。さらに、上述した「ひとり親」の子ども6名の調査結果との比較・照合からは、(1)「個の尊重」または「機会の平等」のいずれかが満たされれば経済的格差を感じることは緩和されるが、いずれも満たされないときは格差を感じやすくなる、(2)「孤独」は経済的格差を感じることと正の相関がある、ということが浮かび挙がってきた。さらに、さらにそれらは可変的であり、格差の感じ方もそれとともに変化することが見えてきた。 加えて、外国人6名、日本人5名のPAC分析を行った(計20名)。今後、総合考察を行いモデルを構築していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)外国人の調査協力者および通訳との日程調整に時間がかかった。 (2)コロナ禍の影響で、対面でのインタビュー調査が難しくなった。デンドログラム作成までのやりとりをメールで、インタビューをオンラインで行うなど工夫をしたが調査協力者への負担が大きく、さらに時間がこれまで以上にかかった。 (3)コロナ禍により状況が変化してしまった今、格差の捉え方も変化が生じている可能性がある。それを踏まえた上で、これまでのデータをどのように分析すべきか検討が必要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでPAC分析を実施した20名の調査協力者の結果を分析・考察し、多文化社会における“主観的格差”についての仮説モデルを提示したい。さらに、“主観的格差”にどのように向き合っていくか、そのストラテジーを「レジリエンス」から検討し、最終的には多文化教育のデザインにつなげていきたい。 コロナ禍の影響で人との接触が絶たれている現在、現場での活動を伴う教育を実践することが難しくなっている。その点については今後の経過に委ねるしかないが、できる範囲で検討していきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度は調査(PAC分析)を中心に行ったため、学生をはじめとする人々を巻き込んでの教育活動には至っていない。2020年度もコロナ禍の影響からフィールドでの教育活動および活動を伴う教育デザインがどこまでできるか懸念はあるが、できることを考え実践していきたい。
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