2020 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会の構造と主観的格差の関係についての実証研究
Project/Area Number |
18K18589
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
横溝 環 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20733752)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 主観的格差感 / PAC分析 / ひとり親(母子家庭) / 自由 / 機会の平等 / 個/多様性の尊重 / サードプレイス / オンライン日本語教室 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多文化共生の対象を国籍や民族に限定せず、個人の感じる主観的格差を多面的・流動的・重層的に解釈してくことで、多文化共生社会に対する新しい指針を示していくことを目的とする。今年度の実績は以下の通りである。 1.論文発表:当研究は経済的格差を感じるか否かと自分のやりたいことが自由にできる環境があると捉えているかどうかには関連があることを指摘した。そして、その自由の意味付けとしてA.メインストリーム内の準拠集団における「機会の平等」、B.その内外問わず「個/多様性の尊重」があることを示した。さらに、「自助」「共助」には「機会の平等」を補う機能があり、A・Bのいずれかが充たされれば経済的格差感が緩和されるという仮説モデル(暫定)を生成した。 2.口頭発表 (1)インドネシア系ニューカマーの子どもたちを調査協力者とし、主観的格差に関する示唆を見出していくことを目的とした。本事例からは、外国ルーツの子どもたちにとって教会というエスニック・コミュニティが重要な居場所となっている一方で、複雑な家庭環境、それに対するコミュニティ(教会・世間)からの風評により、経済的・精神的に追い込まれ自由に生きる可能性が奪われている様子がみえてきた。 (2)Withコロナに伴い地域日本語教室を対面からオンライン開催に変更したことで、本教室がサードプレイスとしてどのように変化したのかについてアクションリサーチをもとに報告した。顕著な変化として、参加者の目的・役割の明確化、人・目的つながりで地域を超えて参加するメンバーの増加、学習ペア/グループの固定化、ペア/グループ間の横繋がりの希薄化(タコツボ化)、人の存在そのものではなく知識・技術への価値の偏重が挙げられる。結果、対面時よりも日本語を学習する空間としての機能は高まったが、その場にいるだけで享受することのできた癒し・憩い等の要素は薄れたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の影響で、筆者および学生たちによるフィールド調査等が全くできなかった。一方では、新しい視点として、口頭発表(2)をはじめ、オンラインを含めた多様な場の創造、その選択・移動の自由、場への意味付けが多文化共生社会を考えていく上の糸口になることが浮かび上がってきた。これらの新しい視点とこれまでのデータとのつながりを考え、今後の研究をどのように展開していけばよいかその方向性を定めるためには、さらなる時間と検討が必要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、これまでPAC分析を実施してきた20名の調査協力者の結果を総合的に考察し、多文化社会における主観的格差感についての仮説モデルを生成する。その上で、可能であれば、定量調査によりモデルの検証を行いたい。さらに、今年度は、多様なまなびの場の一つである定時制高校および夜間中学の調査を学生たちと実施し、その役割および現場の声を多くの方々に伝えていくことで多文化共生の社会の実現に貢献していきたい。ただし、フィールド調査ができるかどうかはCOVID-19に左右されるため、書面・電話・オンライン等を利用し可能な範囲で取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19のリスク回避を優先し、筆者および学生たちによるフィールド調査等が全くできなかったため残高が生じた。本年度もこの状態が継続した場合は、これまでの定性調査で得た仮説を定量調査(Webリサーチ調査)により検証していくこととする。加えて、学生たちと共同で実施する定時制高校および夜間中学の調査に関してはPBLを基盤とし、当事者の声を発信するための映像制作にも取り組んでいく予定である。
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