2021 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会の構造と主観的格差の関係についての実証研究
Project/Area Number |
18K18589
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
横溝 環 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20733752)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 主観的格差 / PAC分析 / 関係流動性 / 承認 / 包摂 / 準拠集団 / 定住外国人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多文化共生の対象を国籍や民族に限定せず、個人の感じる主観的格差を多面的・流動的・重層的に解釈していくことで、多文化共生社会に対する新しい指針を示していくことを目的とする。今年度の実績は以下の通りである。 1.論文発表(1本) 当研究は定住外国人を調査協力者とし、PAC分析を用いて主観的格差感の構成要素を探索し仮説生成することを目的とした。調査の結果、主観的格差感の構成要素(下位格差)として以下の2点が浮かび上がってきた。第一に関係流動性格差である。マクロレベルの準拠集団(国・民族等)の選択を自由に行うことができ、特定の集団を規範としていない調査協力者、つまり関係流動性の高い者には主観的格差を感じない傾向がみられた。第二に承認 / 包摂格差である。特定の準拠集団を規範にせざるを得ない状況の下、統制困難な属性により人格・能力が十分に発揮できず、その属性に対する偏見により他者からの承認および集団への包摂が得にくくなると主観的格差感が生じやすくなることが分かった。だが、承認 / 包摂が得やすいミクロレベルの準拠集団(サブコミュニティ)に一時的に移動することにより格差感を回避している様子からは、マクロレベルとミクロレベルの準拠集団および関係流動性が入れ子構造になっていることが推察された。さらに、準拠集団における人格・能力の発揮を促していたのは努力と支援であったが、日本人と同等の義務が課される準拠集団において支援を求めざるを得ないことは、むしろ格差を感じることにつながっていた。格差感の軽減のためには、準拠集団選択の自由を尊重するとともに、教育現場や職場を含めた公共の場のユニバーサル / インクルーシブデザイン化の推進が求められる。 2.口頭発表(1本) 論文と同様の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の影響で、筆者および学生たちによるフィールド調査等ができなかった。その代わりに定量調査によりモデルの検証を行うことも考えたが、多面的・流動的・重層的である主観的格差の構造を検証するには、膨大かつ配慮の行き届いた質問項目を設定しなければならないという課題が浮かび上がってきた。そのため、これまでとは異なる属性の調査協力者4名の語りをさらに重ね合わせることにより、モデルとの整合性を図り、新たな知見を得ていくことを研究方針とすることにした。なお、2022年度は学生たちによるフィールド調査を実施していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
母子家庭の親子・定住外国人に加え、日本人男性2名・日本人女性2名を調査協力者としPAC分析を実施した。各調査協力者はマイノリティに位置づけられた経験のある者およびその支援者である。令和4年度は、当該調査とこれまでのモデルとの整合性を図るとともに、社会変革の促進要因および抑制要因について検討していくこととする。 加えて、茨城県常総市の協力のもと、学生たちが調査者となり多文化共生に関する街頭アンケートを行う予定である。質問数が限られているシンプルな調査ではあるが、同市の今後の多文化共生を考えていくための指針となるだけでなく、研究のさらなる萌芽となるであろう。 また、Webリサーチ調査により主観的格差感に関する自由記述のデータを取得し、それらをテキストマイニングを用いて分析・考察することで、本研究の精緻化を図っていきたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19のリスク回避を優先し、筆者および学生たちによるフィールド調査ができなかったため残高が生じた。令和4年度はフィールド調査実施の見込みがあるため、現地への移動手段となるバスの借り上げ費用等に使用していく予定である。さらに、Webリサーチ調査により自由記述のデータを取得し、それらをテキストマイニング等を利用し分析・考察していきたいと考えている。
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