2021 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教主義学校から見る日本人の寛容と洋化-ステークホルダーらの期待と文化資本
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18K18590
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
後藤 嘉宏 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (50272208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大畑 裕嗣 明治大学, 文学部, 専任教授 (10176977)
千 錫烈 関東学院大学, 社会学部, 教授 (10584253)
照山 絢子 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (10745590)
辻 泰明 筑波大学, 図書館情報メディア系, 教授 (30767421)
藤谷 道夫 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 教授 (50212189)
片山 ふみ 聖徳大学, 文学部, 准教授 (80507864)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | キリスト教主義学校 / 寛容 / トリプルな信仰 / 女性皇族 / 徳育 / 使命としてのミッション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はクリスチャンが人口の1%強しかいない日本でなぜキリスト教主義学校が隆盛しているのかを探ることを目的とする。2020年度前年度末に行ったウェブモニター調査(15-29歳/東京・神奈川在)の分析を行い、2021年度その論文化作業を目指した。 本研究採択後に出た井上章一ほか『ミッションスクールはなぜ美人が多いのか』(2018)によると、①日本のキリスト教徒は少ないが、日本人はダブルに信仰をする民族であり、キリスト教が洗礼という手続きを要さなければキリスト教を含めトリプルな信仰をする人は多かった。②その証拠はキリスト教式結婚式及びキリスト教主義学校の隆盛である。③皇族女子のキリスト教主義学校入学が多いのも愛と奉仕の精神を育むとの期待があるからである、とされる。 キリスト教主義学校の設立目的を推測させる設問と、キリスト教主義学校生徒・学生のイメージを聞く設問の回答を、当人あるいは家族のキリスト教主義学校への通学経験の有無等による「キリスト教主義学校関与度」の設問とクロスさせることにより、これらの是非を検討した。①のトリプルな信仰の存在及びそれと②のキリスト教主義学校との関連については、キリスト教主義学校の設立目的を推測させる設問において「信者にならなくても、キリスト教の教えを守ることによって、救われる可能性のある人を増やすこと」という選択肢を選ぶ者が、キリスト教主義学校当事者に多いこと等から確認された。それはインタビュー調査で同志社卒業生から得られた「徳育としてのキリスト教」とも合致し③も確認できる。またキリスト教主義学校当事者の方がキリスト教式結婚式及び皇族女子のキリスト教主義学校入学に肯定的であることも確認できた。以上からトリプルな信仰の意識は確認できたが、これは丸山真男のいう首尾一貫性があるがゆえにキリスト教が日本では排除されがちというテーゼに対する反証となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、研究期間全体を通じてキリスト教主義学校のステークホルダーを外縁部、近隣部、当事者に分けて捉えることを目指すが、新型コロナウイルスの影響により、以下の2点で不十分である。 ①「研究実績の概要」の終わりに記したが、キリスト教は首尾一貫した宗教で異質なものを排除するという丸山真男のテーゼに反する回答をする者が、キリスト教主義学校の出身者に多い。また本調査の結果からは寛容性の評価において既成キリスト教と既成仏教・神道との差は比較的小さく、それら三宗教系の新宗教との差が大きい。そのことに鑑みると、丸山のテーゼは彼が内村鑑三の孫弟子でキリスト教が日本においてまだ「新宗教」であった時代の記憶をもつが故の可能性もある。特に本調査は若年層を対象とするため中高年世代とは意識に差のある可能性もあるが、その点の追調査ができていない。②先行研究の佐藤(2006)でも井上ほか(2018)でもキリスト教主義大学女子がきれい、金持ち、キリストの3Kであるとされるが、キリスト教主義学校生徒イメージとして「きれい」というのは我々の調査では検出されず、またこれら先行研究の前提にある、女子バイアスも全くなかった。またこの女子バイアスとも関連してキリスト教主義学校の生徒・学生の階層再生産戦略を本調査では示そうとした。男子の場合、中学高校のみキリスト教主義学校に通い、大学は旧帝大をめざす、女子の場合中高大学一貫のキリスト教主義学校に通い、情操と学力を兼ね備え、有利な結婚によって階層再生産を果たす、このような説明を想定したが、その前提となる女子バイアスがなかった。 以上の質問紙調査の実情を詰めるためにも、若年層世代とは意識に差のある可能性もある中高年層への追調査が必要であるが、できていないし、キリスト教主義学校の幹部や宗教担当教員にインタビューが必要となるが、コロナ禍の影響もあり、それもできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度が本来の最終年度であり、2021年度一年間の延長が認められ、【現在までの進捗状況】に記した不充分な点を改善することを目指したが、昨年度、年度終盤以外は緊急事態宣言やまん延防止措置が発せられることも多く、対面での調査が困難であった。昨年度当初はZoomによるインタビューを行うことも「今後の研究の推進方策」に記した。しかし質問紙調査の概略をはっきりさせて、キリスト教主義学校関係者に自由に語ってもらったあと調査結果をみせて意見を求める方が有効であるが、質問紙調査の結果の論文化が遅れていること、またセンシティブな内容も多いので、一人のインフォーマントに対して我々に与えられるであろう数少ない調査機会を有効に活かすには対面の方が良いこと、またコロナ禍での用務増大の状況があること、以上の理由から2021年度はZoomでのインタビューを見送った。 2022年度は【現在までの進捗状況】に記した課題についての、当事者の認識を明らかにするため、経営陣、宗教担当教員等のキリスト教主義学校当事者へのインタビューを、事情が許す限り対面で行う。また2019年度の調査対象者が15-29歳であったので、それによりキリスト教を神道・仏教並みに融通無碍な宗教と捉えている可能性等 もあるので、一部調査票修正のうえ、ほぼ同様の調査項目を30-65歳を対象として行って、比較を試みる。 また「1. 研究実績の概要」で記した、「信者にならなくても、キリスト教の教えを守ることによって、救われる可能性のある人を増やすこと」という選択肢を選ぶ者が、キリスト教主義学校当事者に多いことの意味を思想史的にも分析する必要があることに、論文化作業を通じて気づいた。日本では、無教会派の内村鑑三が最も著名なキリスト者の一人であることも、このような回答の多い背景として考えられる。したがって思想史的な分析も併せて行う。
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Causes of Carryover |
2021年度は2019年度末に行ったウェブモニター調査結果の論文化作業に取り掛かったが、コロナ禍に加えて研究代表者が宗教社会学専攻でない中での萌芽研究ということもあり、それらに手間取った。現在同調査の論文化作業の目途がついたので、それに基づき調査対象者の対象年齢を2019年度と変え30-65歳として、類似したウェブモニター調査を行いその委託費とこれらの解析のRA雇用に費用を充てる。またキリスト教主義学校の経営陣、宗教担当教員等の幹部へのインタビューを行うが、その調査への謝礼並びにその録音データのテープ起こし及び解析のRA雇用に充てる。 また「1. 研究実績の概要」で記した、「信者にならなくても、キリスト教の教えを守ることによって、救われる可能性のある人を増やすこと」という選択肢を選ぶ者が、キリスト教主義学校当事者に多いことの意味を思想史的にも分析する必要がある。日本では、内村鑑三が著名で無教会派が知られていることも、このような回答の多い背景として考えられる。したがって内村及びその下に集った人びとの資料を揃える費用にも充てたい。 さらに概要で記したように、キリスト教主義学校女子の階層再生産戦略は女子バイアスのない現代において存在しないが、戦前の『学校創立○○年史』の類には結婚相手の学歴等を示す形での卒業生の手記・消息が載せられているものもある。それらを体系的に揃える費用にも充てる。
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