2019 Fiscal Year Research-status Report
料理レシピの記号化による料理の特徴の解明に向けた研究
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18K18607
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
石川 伸一 宮城大学, 食産業学群(部), 教授 (00327462)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 料理の式 / 料理の構造 / 料理 / 構造 / 江戸 / 素人庖丁 / きょうの料理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、江戸時代に出版された庶民向けの料理書に記載されている料理の作り方から「料理の式」を作成し、新たな視点での江戸時代の料理の特徴や、現代の料理との共通点・相違点を明らかにすることを目的とする。 江戸時代の料理は、当時の庶民を意識して刊行されたとされる「素人庖丁」を選び、記載された527品の作り方を、「NHKきょうの料理100選」と同様のレシピ形式に現代語訳を行った。そのレシピを使用し、ティスの提唱した要素を用いて式化を行った。式の解析方法としては、それぞれの要素数と出現率を算出し、現代の一般的な料理として選択した「きょうの料理100選」と比較した。 素人庖丁と「きょうの料理」の全体の要素数は、食材では固体S、液体W、油脂Oの順で多いことは一致しているが、きょうの料理の状態構造は併存+、分散/、包合⊃、重層σの順で多い一方、素人庖丁は包合⊃、併存+、分散/、重層σの順で多い結果となった。また、素人庖丁ときょうの料理はS、W、O、+、/、⊃で有意な差が認められ、どちらの場合でも素人庖丁がより要素数が少ない結果となった。料理の式は食材の数が多ければ他の要素も増えると予想されることから、素人庖丁はきょうの料理よりも食材が少なく、よりシンプルであることが考えられる。要素の出現率についての特徴をみると、素人庖丁ときょうの料理では出現率の高い要素は一致していない。主食・主菜・副菜ごとの出現率では、素人庖丁において主食は/、主菜・副菜は⊃の状態構造が最も出現率が高い。主食において/が多いことは、当時の特色であった「汁かけ飯」の影響が考えられた。主菜、副菜において⊃が多いことは、調味料をかける、和えるといった調理動作が多いことが影響していると考えられた。江戸時代の他の料理本や、江戸以降の時代の料理と比較することで、新たな特徴や日本料理の変遷を明らかにできると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エルヴェ・ティスは「料理を“食材の状態”の要素(固体:S、液体:W、気体:G、油脂:O)と“分子活動の状態”の要素(併存:+、分散:/、包合:⊃、重層:σ)を組み合わせることであらゆる素材や料理の成り立ちが説明できる」と提唱し、ソースを始めとする一部の食品について式化を行ったが、一般的料理の式化には至っていなかった。研究代表者らはこれまでティスの提唱した「食材の状態」と「分子活動の状態」の二つの要素を組み合わせ、あらゆる料理を「料理の式」で表現することを行ってきた。先行研究では、「NHKきょうの料理100選」141品のレシピから料理の式を作成し、今までの分類法では見えてこなかった既存の料理の共通点や相違点、特徴を明らかにした。 本研究では、さらに時代によってどのように料理が変わってきたのか、その一例として、江戸時代の料理と現代の料理の比較を行った。江戸時代は、すしや天ぷらなど今日の日本料理につながるルーツが完成され、大衆へと広まった時代だと言われている。江戸時代と現代の料理との違い、また江戸時代の料理の特徴などを客観的な視点から調査した例はきわめて少なという現状があった。本研究によって、料理の構造的な視点での江戸時代の料理の特徴や、現代の料理との共通点・相違点の一端を明らかにすることができた。「料理の式」の有用性についても明示できたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
「料理の式」を用いて時代による料理の変化を検討したが、さらに現代の料理、特に和食・日本食がどのように変化しているのか、3Dスキャナーなどを用いた料理の構造学的な視点からの検討を行う。料理の式という客観的な指標に料理を変換することで、各料理がその料理たるところは何かという一端が明らかになるものと思われる。「料理の哲学」部分を知ることが、その料理のさらなる発展、さらに食文化の発展に繋がるものと確信している。また、料理単独ではなく各国料理の全体の特徴、特に日本の「和食」の潜在的なストロングポイントをレシピや料理の「料理の式」による客観的な記号から顕在化することは、和食・日本食という料理ジャンルの真の理解、さらには和食・日本食の世界へのさらなるPRにも繋がると考えられるため、この分野での研究も進めていく。 また、料理をおいしくする調理する上でのポイントや、私たちがその料理をおいしく感じている点はどこなのかを知ることで、よりおいしい料理やよりバリエーションに富んだ料理の開発に繋がっていくと思われる。料理の世界では、従来より経験により生み出される場合が多く、科学的なエビデンスを元にした料理や食品の開発が十分になされていなかった側面がある。経験則に頼らない、料理の式といった科学的な視点でのおいしさの解明と開発は、料理のおいしさの向上や食のバリエーションの豊かさへと繋がり、最終的には、私たちの幸せに貢献すると考えている。
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Causes of Carryover |
当該年度における物品費はほぼ計画の予定通りに使用したが、前年度の未使用額が大きく、次年度使用額が生じた。次年度さらに研究を積極的にすすめる予定であるため、翌年度分の助成金と次年度使用額を合わせて本研究課題を推進していく。 次年度使用額の使用計画としては、料理の構造解析に用いる3Dスキャナー等の購入を予定している。
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Research Products
(9 results)
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[Book] 食感をめぐるサイエンス2019
Author(s)
石川, 伸一, 萱島, 知子, 島田, 良子, 冨永, 美穂子, 山下, 絵美, 湯浅, 正洋(担当:共訳)(原著:オーレ・G・モウリットセン, クラフス・ストルベク)
Total Pages
344
Publisher
化学同人
ISBN
475982006X
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