2020 Fiscal Year Research-status Report
中山間地域の持続的発展を実現する「風景をつくるごはん」概念による教育の可能性探索
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18K18659
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
中山 迅 宮崎大学, 大学院教育学研究科, 教授 (90237470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
真田 純子 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (60452653)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 食と景観 / 中山間地域 / 持続的発展 / 小中学校教育 / 地域教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
基礎的研究として,徳島県神山町において農業や地域の発展について町の現状や計画目標などについてヒアリングを行った。また,農業風景とその保全活動において著名な棚田地域を複数ピックアップし,その保全活動を遠隔でヒアリングし,農業,経済,環境それぞれの持続可能性の観点から整理した。その結果,保全活動が有名な地域でも環境に配慮した(≒風景をつくる)農作業が行われていることは少ないこと,またそれを農産物の価値として売り出すには至っていない事例が多いことを明らかにした。また,文献調査により,食と農業の関係に関する世界的な研究の動向,政策の動向について知識を広げた。アメリカのvalue-basedフードサプライチェーンの事例は,「風景をつくるごはん」の参考になることが明らかになった。 しかし,2020年度は,COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大により,期間中の大半の期間に,宮崎県の学校では都道府県を越えての移動は制限されていたため,研究フィールドとしている宮崎県西臼杵郡日之影町に東京から研究分担者が行くことはできなかった。県内の市町村を越えての移動も学校からは歓迎されないため,研究チームは現地入りを自粛し,授業やワークショップなどは行わないことにした。そして,前年度までの研究成果のとりまとめと発表を可能な範囲で実施することとし,日本科学教育学会年会と土木学会 景観・デザイン研究発表会において研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
開発中の「風景をつくるごはんゲーム」については,ワークショップが出来なかったため改良することができなかった。しかし,もう1つの課題は,農業のあり方と環境について農業政策の影響を多大に受けている農業者(生産者),および都会の消費者に対し,良好な農村と食生活の関係を伝える方法である。ゲームでは,環境と食の関連性を伝えることは可能であるが,さらに深い部分まで伝えることが難しい。ゲームを行った児童は環境と食の関連性を「発見」し,家庭に持ち帰るようだが,それを定着させるためには,ゲームの背景として農村の大人が納得する理論を構築しておくことが重要である。その点については,2020年度の棚田の保全活動の調査,および文献調査においてかなり進捗したと考える。 前年度までに実施した中学生を対象とした授業の効果検証のため,「食べ物を手に入れるときに気をつけること」と「初めて知ったこと」についての授業前後の自由記述式回答の分析を実施した。食べ物を手に入れるときに気をつけることについては,授業前には価格,消費期限,安全性などのような,消費者としての通常の心得と考えられている事柄を中心に言及しているが,事後には産地や農法に関する言及が出てくるようになっている。産地への言及は授業後に倍増し,8割の生徒が産地に言及していた。さらに「地元」への言及が大きく増加し,地域で生産された食材を食べることに,対象生徒の約半数が注目したことになった。このように,「風景をつくるごはん」のゲームを中心とした授業が,中学生に産地への注目を促す効果があることが確認された。しかし,農法については,事前の1名から5名に増加しているが,産地ほどには注目されず,この点での課題が残った。
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Strategy for Future Research Activity |
学校内での教育を実践として浸透させるには,地域住民(保護者)の参加も重要である。なぜなら,生産地である農村,消費地である都市部ともに,地域住民の意識や行動は農業政策や農業,購買行動など実際の生活に根差しているからである。2019年度に日之影町の中学生の保護者を対象に実施した「家庭教育学級」では,直後の自由記述式のアンケートに対して,農家の厳しい現実や社会の意識が変わるのが難しいことなどについて言及する回答があったが,その日の授業を受けた息子が,昼間の授業のことを話して地域に密着した農業への意気込みを話してくれたという趣旨の回答もあった。このように,対象地域の将来を支える小中学生とあわせて保護者向けのワークショップを実施することの効果があると同時に,繰り返しの実施で多くの住民の価値の共有が図られることが重要であると考えられた。そこで,2020年度には新型コロナウイルスの影響で実施できなかったワークショップを,2021年度にはワークショップを可能な限り実施できるようにしたい。そして,最終年度となるため,これまでに実施した調査データをさらに分析し,とりまとめて,学会等で報告する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ有為する感染症の拡大のため,計画していた対象フィールドでのワークショップや調査のために現地いるすることができず,また,国内外での学会にも現地参加することができなかった。そのため,旅費を必要とする多くの事業が塩基となっているため,予算を次年度に使用する必要がある。次年度には,遅れている調査,現地でのワークショップ,これまでに得られているデータの分析・成果の取りまとめ,発表を行う予定である。
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Research Products
(6 results)