2018 Fiscal Year Research-status Report
Objective evaluation of the difficulties in the everyday life for the developmental disability-Study for reasonable support-
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18K18666
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
早川 友恵 帝京大学, 文学部, 教授 (60238087)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 発達障害 / 認知神経科学 / 視覚情報処理 / 視線計測 / 瞳孔反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
発達障害は、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される疾患群 (DSM-5)である。発達障害はその障害の質や程度に違いがあっても、視覚認知に歪みがある点で共通している(Simmons et al., 2009, Handler, et al., 2011)。視覚はその成立基盤に後頭葉・側頭葉・頭頂葉の機能がかかわる。さらに、意志に基づく情報選択や注意の移動は前頭前野および前頭眼野の機能を映し出す。また、視覚刺激によって、行動抑制やワーキングメモリなどの前頭葉機能を測定することもできる。そうした点で、系統的視機能評価は発達障害の認知神経学的な問題点を明らかにするポテンシャルをもっている。 平成28年改正発達障害者支援法および障害者差別解消法により、合理的配慮が義務化され、新学習指導要領にも記載された。認知神経科学的根拠に基づいた「合理的配慮」のあり方を考えるために、本研究では、系統的視機能評価に加え、広範な皮質間ネットワークを反映する視線計測と自律神経系機能を直接観察できる瞳孔計測を実施する。また、近年、自閉症スペクトラム症で、錯視が生じにくいことやカニッツアザ図形等で主観的輪郭が生じにくいことが報告されている(Stroganova et al., 2012, Chouinard et al., 2018)。そこで、本研究の実施に、脳波による主観的輪郭成立にかかわる脳内過程の分析を加えた。 発達障害者・児および健常人・児の視機能について、①網膜から第1次視覚野を基盤とする視覚情報を符号化する能力、②第1次視覚野から腹側および背側視覚野を基盤とする入力情報の高次視覚への変換能力、③頭頂・後頭・側頭領域から前頭眼野を基盤とする眼位および眼球運動制御能力、④高次脳機能(ワーキングメモリ・行動の抑制・語彙発達)を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
視機能は眼球から脳内の視覚情報処理過程を考え、①視覚情報を符号化する能力(遠見視力、近見視力、視野、コントラスト感度、瞳孔径、負荷調節、色覚)、②入力情報の高次視覚への変換能力(立体視、高次視知覚)、③眼位および眼球運動(斜視、外眼筋バランス、輻輳、視線)、④高次脳機能(ワーキングメモリ・行動の抑制・語彙発達)を評価した。課題設計に際しては、個々の児童・生徒の日常の困難を具体的かつ客観的に示すことができ、合理的配慮・支援につながるよう工夫した。視力検査では、主訴にしたがい羞明などの視覚過敏を評価できるよう準備した。視線計測では、意思決定にかかわる背外側前頭前野からの入力をうける随意性眼球運動が評価できるよう、また、注意制御(抑制)が可能かどうかを評価するために、周辺ノイズへのノイズの有無による衝動性眼球運動課題を、また単語/非単語読み・横書き文章読み・縦書き文章読み課題を実施した。瞳孔計測では、自律神経系機能を評価するため、また羞明の原因を明らかにするために、輝度変化に対する反応を刺激呈示後5秒および30秒間計測した。計測データには、作成したノイズ・カットフィルターをかけ、加算平均処理を行なった。 初年度、上記の評価のすべての準備が整い、視線計測・瞳孔計測の刺激作成も完了した。現在、発達障害のコントロール群となる定型発達成人・児童の計測を進めており、結果の一次解析を進めている。また、発達障害の数名について、視機能評価を行なった。その内、アーレンシンドロームを疑われた症例についは、2018年度開催されたLD学会第27回大会でその視覚特性を報告し、論文投稿・掲載に至った。また、新たな漢字の学習が困難な児童の背景に視空間処理の問題が明らかになった例については、2019年度日本心理学会第83回大会で報告予定である。脳波計測については、健常人の計測を終了した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で計画した系統的視機能評価のすべてを継続して行うと、その実施には約4時間を要する。検査の実施による疲労を避けるため、評価は2回に分けて実施する。 発達障害の主な構成疾患である自閉症スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習障害について、各10名の解析を行なう。発達障害のコントロール群となる定型発達成人・児童の計測は初年度に続き実施する。成人は10名、中学生は5名、小学生1-2年生・3-4年生・5-6年生を各5名程度について、計測する予定である。定型発達児童については、データ数が不足しているため、計測を強化したい。視線計測および瞳孔計測については、定型発達成人の計測が終了したので、そのデータを解析する。 自閉症スペクトラム症の視覚特性(主観的輪郭が生じにくい)を明らかにするため実施される脳波計測は、その実施に約2時間の継続的集中を要する。そこで、本研究では定型発達成人15名と自閉症スペクトラム症10名程度の計測を目指している。定型発達成人のデータ収集はほぼ終了したので、解析を開始する予定である。 視線計測・瞳孔計測・脳波計測の結果は解析終了後、それぞれ学会報告を予定している。発達障害については、症例報告のかたちで報告し、個々の症例に適した合理的配慮を提案したい。
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Causes of Carryover |
発達障害者・児の参加者数が多くなかったため、謝金が少なかった。また、論文掲載費用が少額であった。次年度使用額は、実験参加者の謝金にまわす予定である。
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Research Products
(3 results)