2018 Fiscal Year Research-status Report
〈多元的生成モデル〉にもとづく高校づくりの促進条件に関する臨床的研究
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18K18669
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菊地 栄治 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10211872)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 〈多元的生成モデル〉 / 〈一元的操作モデル〉 / 相互的主体変容 / 持続可能性 / 対話的関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.文献研究を通して、とりわけ「縮小期後半」以降の教育改革が〈一元的操作モデル〉に彩られ、「教育の経済化」や「人事管理制度の改定」が進められる中でさらにその傾向が強まっている実態が明らかになった。時代は、新自由主義・新保守主義・形式主義・功利主義およびそれらを貫く父権主義に枠づけられてきた。同時に、これらの動きを相対化し、より良い方向へと展開させる物語の乏しさを認識させられた。この意味で、〈多元的生成モデル〉はひとつの重要なオルタナティブとなり得ることがより明確になった。 2.とはいえ、困難な時代状況において、〈多元的生成モデル〉の内発的な実践を外側から記述し理想化するだけでは〈一元的操作モデル〉に呑み込まれ、システム化されてしまう。これを避けるには、(1)内発的な実践の萌芽をできるだけ重層的・多元的に認識すること、(2)当該実践の持続可能性を高めていくための取り組みを支援していくとともに理論構築を試みること、(3)とくに生徒の声に耳を傾けながら〈多元的生成モデル〉の教育的・社会的意義を言語化すること、(4)さまざまな実践の萌芽をつなげ、とくに継続的にかかわる主体(教員など)を中心とした相互的主体変容の場を構築していくこと、の4つの点が重要であることを認識することができた。 3.本年度は、上記(1)~(3)に焦点化して研究を進展させた。とくに、(3)については、3つの公立高等学校の3年生生徒計16名に各30分~1時間強の半構造化インタビューを実施した。かれらがそれぞれの高校でどのように他者と出会い、学びをどのように経験し意味付与し、社会や他者をどのように捉え、さまざまな葛藤の中で未来をどのように描いて行ったかをできるだけ深く捉えることにした。年度末のインタビュー実施となったため詳細な分析は次年度に実施し、日本教育社会学会大71回大会での報告と出版物の作成に取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
より適切なサンプル構成とするために3校に絞り込んだが、本研究課題の一年目に想定していた生徒インタビューまで実施することができた。また、対象校の一校の学校運営の困難さに直面することで、研究代表者自身想定できなかった学びを経験することができた。年度途中で大学運営の業務が新たに付加されたため、当初予定していた2015年全校高校校長教員調査データの再分析とそれにもとづく追加対象校の選定にまでいたらなかった点は次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
〈多元的生成モデル〉の実践校を3校に絞ったことで却って研究課題が焦点化され明確になった。この点は継承しさらに具体的なかかわりへとつなげていきたい。他方、さらなる対象校の選定については、次年度の課題としたい。対話的関係を大切にしつつ深く学校にかかわることで、計画そのものに若干の変更が生まれるが、付随的な学びや気づきが研究をより豊かにしてくれているという現実を大切にしたい。研究という実践自体が〈多元的生成モデル〉にもとづくものになりつつある。
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Causes of Carryover |
予定していなかった学内業務が生じただけではなく、「実践校」をめぐる組織的実践上の困難に寄り添う必要性が生じた。このことによって、既存の高校校長・教員調査データの再分析をふまえて「抽出校」を選定するという作業が遅れがちとなった。次年度においては、遅滞した作業を進めるとともに、現在の状況をふまえつつ、いくらか焦点づけた研究計画に変更することでより一層の研究の成果を得ることとしたい。
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