2018 Fiscal Year Research-status Report
幼児のためのアプローチカリキュラム「言葉領域モデルプログラム」の開発と運用
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18K18673
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Research Institution | Nagoya University of Arts and Sciences |
Principal Investigator |
大島 光代 名古屋学芸大学, ヒューマンケア学部, 准教授 (00639164)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 幼小接続期 / 「言葉」領域 / 年長児の言語力 / 音韻意識 / LDサスペクト(予備軍) / 文字認知教材の開発 / ひらがなパズル |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間(3年間)における1年目として、まず幼小接続期にある年長児の言葉の力(言語力)の実態を調査した。調査協力を得た本学の系列幼稚園(H幼稚園112名)とT市の公立こども園2園(113名)計225名を対象とした。言語力調査に使用したテストは、筑波大学附属聴覚特別支援学校幼稚部にて長年に渡って使用された「幼児児童読書力テスト(幼少年教育研究所編)」を活用した。どの園も2回実施した。 H幼稚園では、保育環境のうち言語環境に着目し、教員を対象とする研修会や「読み書き」の必要条件となる「音韻意識」や「語彙」を拡充する遊びの提供を行い、言語力テストの1回目と2回目の結果を比較することによって、「音節の分解」がT市のこども園より顕著に伸びていることを確認した。 また、H幼稚園での1回目の言語力テストで、知的には問題がないにもかかわらず「音韻意識」の獲得と「文字認知」が低得点であった幼児2名を対象として、言語指導を行った。通常の方法では文字認知がすすまない幼児に、ひらがなのパーツで認知をすすめる「ひらがなパズル」の教材を開発し、試行した。その結果、夏季休業中の17回で、一部特殊音節を除くひらがなの「読み」がほぼできるようになった。 年長児期には、就学後に発覚するLD児が潜在している。その兆候としては、「ひらがなに全く興味を示さず、読み書きができない」「音韻意識の獲得が不十分」「図形の弁別が苦手」などが予測される。「幼児児童読書力テスト」は、1972年に標準化されており、現代の幼児の言語力はそこからさらに良くなっていることがうかがえたが、依然として読書力段階点が評価1・2に属する幼児の割合はほとんど変らないことが示唆された。「発達性読み書き障害」の幼児は、この中に含まれていると思われる。 2018年度は、現代の年長児の言語力の概観をつかみ、LD予備軍である年長児に対する教材開発が行えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アプローチカリキュラムの実情は、今年度リサーチする必要があるが、年長児の言語力の実態を標準化された言語力テストによって把握することができた。現在、幼児教育施設において言語力テストを実施することは、様々なハードルがあり実現が困難である。年長児の言語力の概要が把握できたことは、本研究にとっては大きな一歩である。また、実際に、園の教員を対象に研修を実施することによって、就学後に必要となる言語力を育むための知識や支援方法・遊び・活動を実践的に教員が身につけ、幼児に試行していくことができた。教員向けのアンケートから、その実態や意義、課題を確認することにより、具体的な「言葉領域モデルカリキュラム」の構築につなげることができる。また、言語力テストの結果をもとに、夏季休業中に2名の幼児の言語指導を行った。この際、聴覚障害児教育の言語指導スキルを活用し、2人とも成果をあげることができた。個別に開発した支援教材は、幼児教育施設での遊びとして提供できる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
言語力テストの結果から、「文字認知低群」と「文字認知達成群」の下位テスト項目「語の理解」「図形の弁別」「音節の分解」「音節の抽出」「文の理解」全てに有意差(1%水準)があることがわかった。年長児の文字認知を遊びながらすすめていく教材や活動を開発し、教育課程において組み込み実践することで検証を行う。 また、言語力は就学後の読解力の基礎となることから、北欧の幼児教育施設における「言葉」領域の実践や教材、プログラムを視察し、日本における幼児教育に応用できるものを取り入れたい。 今後は、「言葉領域モデルプログラム」開発に向けて、具体的な教材や活動内容のコンテンツ開発を中心に研究するとともに、年長児期において「発達性読み書き障害」の可能性がうかがえた幼児の追跡調査を行い、文字認知の支援により「読み書き」が可能になった時期による就学後の教科学習の困難性の差異について調査したい。
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Causes of Carryover |
幼児向けESDについての視察として、北欧(スウェーデン・フィンランド)の幼児教育施設を訪問する。持続可能な社会の担い手を育む教育には、発達障害幼児の早期発見・早期支援・障害予防も含まれる。北欧諸国は、OECDのPISA調査に含まれる読解力リテラシーでは注目に値する国である。幼児期に、どのような「言葉領域」のプログラムを展開しているのか、視察をとおして学び、日本に導入できるものを活用したいと考えている。特に、幼小接続期にあたる就学前の幼児への「文字認知」をどのようにとらえ、カリキュラムに組み込んでいるのかを視察したい。そのため、8月28日~9月6日までの期間(10日間:移動日含む)、スウェーデン・フィンランドの2カ国を訪問し、幼児教育施設・小学校・特別支援教育の施設を視察する。費用は、渡航費・移動費・宿泊費・食費をあわせて45万円くらいの見込みである。
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