2018 Fiscal Year Research-status Report
総合的な社会的信頼研究の展開 -ディペンダビリティ心理学創出の挑戦-
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18K18704
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
林 直保子 関西大学, 社会学部, 教授 (00302654)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
与謝野 有紀 関西大学, 社会学部, 教授 (00230673)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 信頼 / 信頼性 / 社会関係資本 / コミュニティネットワーク / 潜在連合テスト |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2018年度については、信頼感の測定方法を中心に検討と開発を行った。従来の心理学的信頼尺度、GSS項目等による測定は、いずれも回答者による自己報告であり、社会的望ましさ等による影響から自由ではなかった。さらに、一般的信頼を測定しているとしながらも、概念的にも測定的にも一般的他者への信頼の測定になっているかに関しては大きな問題があった。また、信頼ゲームや分配委任ゲームを用いた実験的手法による測定では、信頼感と信頼性の両側面の測定が可能であるが、これらもやはり実験参加者が意識的にコントロール可能な行動的意思決定による測定であり、また、実験ゲームによる測定は、金銭的な誘因の大小による影響や、実験ゲーム内で「リスクを取らなければ面白くない」といった信頼とは別の要素による影響が混入してしまう等の問題があった。 そこで本研究課題では、回答者が意識的にコントロールすることが困難な潜在的態度としての信頼感の測定を中心に検討した。具体的には潜在連合テスト(IAT)を応用した手法の創出を試み、回答者のテスト自体への態度の影響を極力小さくするよう独自の操作を加えた測定方法の開発に着手し、複数回のプレテストを実施した。 また、申請書に記載のコミュニティ(東日本大震災被災地)において、復興に向けた活動におけるコミュニティネットワークの信頼構造について、地域のNPO法人を中心に聞き取り調査を行った。被災当初の地域内の完成性が変化し、さらに、復興が具体化するにつれて行政への信頼感が変化する中で、コミュニティネットワークの信頼構造が曖昧化しつつある現実の一端を見てとることができた。一方、こうした状況を維持するために、信頼構造の維持に対して積極的に働きかけ続ける主体もあり、こうした働きかけがコミュニティネットワークをポジティブネットワークとして機能させる核となっている可能性が認識された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、信頼の文献レビューとコミュニティにおけるインタビュー、信頼の新しい測定方法の開発を中心に着実に研究が進んでおり、2019年度には信頼測定の本実験が実施できる見込みである。本実験後には、学会、学会誌等に成果報告が可能となる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の研究成果を踏まえ、以下のように研究を推進する予定である。第一に、信頼の潜在連合テストを応用した信頼感測定手法を、各種の個人、制度に関して開発し、顕在指標との関連性を明らかにする。これまでの自己申告式の信頼感の測定方法は、複数の測定指標間の相関関係が必ずしも高いとはいえず、各種の議論の対象となってきた。潜在連合テストを応用した新規の測定手法と、これらの顕在指標間の関係を検討することで、これまで測定されてきたものが何を意味するかについて実証的に検討する基礎を得ることができる点で、挑戦的研究として意義ある研究を推進する。第二に、新規の信頼感の測定手法と社会的ジレンマ実験を組み合わせて研究することで、これまでの信頼研究を再構築する。例えば、日米間で社会的ジレンマ実験における協力率に差があることが、一般的信頼との関係で議論されてきたが、実験参加者は何を意図して協力、非協力を取るのかを潜在指標によって識別できるような実証研究を提案する。第三に、社会調査との組み合わせが不可能とみなされている潜在連合テストを、多人数を相手に実施できるような応用手法の開発を行う。この点に関しては、すでに2018年度中に見込みが立ってきており、挑戦的実証研究として具体的に推進できる可能性が高まってきている。最後に、これらの研究手法を基礎にして、コミュニティネット―ワーク構造と信頼の関係を検討し、コミュニティ権力構造の研究以来、社会学分野が検討してきたコミュニティネットワーク研究を、社会・信頼学的研究として再構築することを試みる。
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Causes of Carryover |
2018年度は信頼測定の新手法の開発に注力し、研究開始前の研究計画にあったコミュニティにおけるデプスインタビューを次年度以降の計画に変更することが、プロジェクト全体としてより効率的との判断に至った。生じた残額は2019年度の予算とあわせて、信頼測定の新手法を用いた実験およびその知見を展開した地域調査の実施に使用する。
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