2019 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Laplacians on fractals invariant under action of discrete groups of Moebius transformations
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18K18720
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
梶野 直孝 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (90700352)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | ラプラシアン / フラクタル / Klein群の極限集合 / Sierpinski carpet / 自己等角フラクタル曲線 / 複素力学系のJulia集合 / Klein群の擬等角変形 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度には,前年度の時点で定義として妥当と思われるものを見出すことに成功していた,等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線における幾何的に自然なラプラシアンについて主に研究を行った.具体的には,この種のフラクタル曲線の上の測度に対する既存の解析手法を詳細に検討することにより,想定していた方法でラプラシアンが実際に定義できること,および対応する熱方程式の基本解(熱核)がよく知られた型の定量評価を受けることを証明し,さらにWeyl型固有値漸近挙動についても証明の完成には至らなかったものの証明の見通しを完全に立てることに成功した.この結果は本研究課題が目標とする幾何的に自然なラプラシアンの構成と解析が,円詰込とは限らないより広範なフラクタルへと拡張できる可能性を示唆するものであり重要である. また上記の研究と並行して,前年度に既に得られていた,Klein群(Riemann球面上のメビウス変換のなす離散群)の作用で不変かつSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルにおけるラプラシアンに関する結果について研究発表を行った.特に2019年11月に開催された第62回函数論シンポジウムで講演し関連分野の専門家らと意見交換を行った際,この種の円詰込フラクタルの擬等角変形(元のKlein群の擬等角変形として与えられるKlein群の極限集合)で非自明な(元の円がフラクタル曲線に変形された)ものが存在するための(Klein群論においてよく知られている)条件についての知見を得た.これによりKlein群の作用で不変かつSierpinski carpetと同相だが「円詰込でない」フラクタルの構成法について一定の理解が得られたことになるが,このことは円詰込でないフラクタルへの拡張の可能性を検討する上での試金石となる基本的な具体例を与えるものとして今後重要となることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に記した2つの話題のうち,前年度の時点で既に解決の見通しが立っていた等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線における幾何的に自然なラプラシアンの構成と解析については,Weyl型固有値漸近挙動の証明の完成に至らなかったのは2019年度当初の見込みよりは少し遅れていると評せざるを得ない.とはいえこの話題はKlein群の極限集合であるような単純フラクタル曲線の場合に限定してさえ解決は困難であろうと本研究課題の応募時点では見込んでいたものであり,それが既に完成目前となっていることは本研究課題開始当初の計画以上に進展していると評価してよいと思われる. Klein群の作用で不変かつSierpinski carpetと同相なフラクタルについては,円詰込であるものの擬等角変形により円詰込でない(円ではなくフラクタル曲線からなる)ものを得るためには元のKlein群に一定の条件が必要であるという(Klein群論においては基本的な)事実を把握できていなかったのは認識不足であった.しかしこの事実の把握によりこの種のフラクタルでフラクタル曲線からなるものの具体例が豊富に得られたことは,より広範なフラクタルへの拡張の可能性を検討するための基礎付けを与える重要な進展であったといえる. 一方,2018年度中に得られた結果およびその前提となる結果に関する論文の執筆については,少しずつ進めてはいるものの時間の不足のため満足に取り掛かることができておらず,最も基本的な場合であるApollonian gasketの場合でさえ論文の完成にはもうしばらく時間を要するという状況である. 以上から,円詰込フラクタル以外の場合への拡張に関し当初の計画以上の進展は得られているものの,研究課題全体としては順調ではあるが当初から予定していた水準を上回る進捗状況ではないと評価せざるを得ない.
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Strategy for Future Research Activity |
まず等角写像の有限族の作用で不変な単純フラクタル曲線における幾何的に自然なラプラシアンの構成と解析について,既に見通しが完全に立っているWeyl型固有値漸近挙動の証明を速やかに完成させる.さらにこの場合に対する知見を土台として,Klein群の作用で不変かつSierpinski carpetと同相だが円詰込でないフラクタル(の扱い易い具体例)に対しても幾何的に自然なラプラシアンが定義できWeyl型固有値漸近挙動が同様の形で成り立つことの証明を試みる.このうちラプラシアンの定義については単純フラクタル曲線の場合と同様の方法により可能であるとの確信を既に得ており,そこで既に完成している円詰込である場合に対する証明方法に必要な修正を加えることで円詰込でない場合にもWeyl型固有値漸近挙動が証明できないか検討する.また,単純曲線やSierpinski carpetとは全く異なる位相構造を有するKlein群の極限集合および複素力学系のJulia集合に対しても,同様の結果を得ることができないかを(困難であろうと見込んではいるものの)時間の許す範囲で検討する. 一方,上記と並行して円詰込フラクタルにおける研究についても,前提となるApollonian gasketに対する結果およびSierpinski carpetと同相な円詰込フラクタルに対する結果に関する論文の執筆を急ぎ,さらに一般の有限分岐的(各構成単位同士の共通部分が有限集合)な円詰込フラクタルへの拡張についても数学的枠組みの設定・技術的詳細の検討・論文執筆を進める. 以上の研究に関し国内外の研究集会で研究発表を行い,結果の周知に努めるとともに関連分野の専門家らの知見を乞う.またSierpinski carpetと同相なフラクタルを双曲群論や2次元擬等角幾何との関連で活発に研究している各国の専門家らを招聘あるいは訪問し議論を行う.
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Causes of Carryover |
2019年度には種々の研究集会への参加のため複数の国内出張および海外出張を予定していたが,このうち実際に行った海外出張では現地滞在費を当該研究集会の主催者側からご負担いただける運びとなったことから旅費が少額で済み,また2020年3月に予定していた海外出張については新型コロナウィルス感染症の感染拡大状況に鑑みて取り止めにせざるを得なかったことから旅費を使用しないこととなった.これらのことから旅費所要額が大幅に減額され,そのため最終的な使用額も当初想定よりもかなり少額で済むこととなった. 加えて,2019年度には研究者招聘を行う予定がなかったのに対し,2020年度には比較的規模の大きい国際研究集会の日本国内での開催を計画しており,それに伴い多数の国内研究者および外国人研究者を招聘するための多額の招聘旅費が必要になるものと見込んでいる.そこで2019年度の交付額を当該研究集会開催に際しての招聘旅費に充当する目的で未使用に留めたものである. 次年度使用額は,国内外の研究集会で研究発表を行い結果の周知に努めるとともに関連分野の専門家らの知見を乞うための旅費,各国の専門家らを招聘あるいは訪問し議論を行うための旅費,および上記国際研究集会の開催に当たり多数の国内研究者および外国人研究者を招聘するための招聘旅費として使用する.
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