2018 Fiscal Year Research-status Report
Towards new mathematical tools for understanding chemical reaction networks
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18K18723
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
荒井 迅 中部大学, 創発学術院, 教授 (80362432)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 反応経路網 / 同変モース理論 / コンレイ指数 / 計算トポロジー / グラフ理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,量子化学計算で得られた反応経路網のデータやポテンシャル曲面の構造を理解するための,数学的な裏付けのある手法を構築することを目標とするものである.一般的に量子化学計算で得られるデータは分子構造を記述する高次元空間の座標で書かれており,反応について理解するためには,何らかの方法で低次元空間に落としこむ必要がある.しかし,そのための数学的な理論はまだ未発達であり,化学者が経験や知識に基づき手動で次元縮約を行なってきた.また,一般的な手法では,ポテンシャル曲面の構造を少数の着目する変数で記述し,着目していない方向はポテンシャルの最小値を取るなどの縮約を行なっているが,非線形性が強い場合にはこの方法で正しい構造は得られない.そこで本研究では,同変モース理論やコンレイ指数理論等のトポロジーの道具,それらを計算機上に実装する計算トポロジー理論,さらにグラフの構造保存埋め込み理論などを組み合わせることにより,化学反応経路網を視覚的にも,幾何学的にもより正しく理解する技法を構築する. 本年度は,特に量子化学計算の結果得られた高次元の配位空間におけるポテンシャルエネルギーの値を,低次元で可視化する技法についての研究を進めた.申請段階で得られた予備的な研究と同様に,主な道具として多次元尺度法を用いるが,いったん多次元尺度法により作成した反応経路地図を用いて,軌道を時間的に追跡する技法を新規に開発した.まだ精度に問題はあるが,従来の技法よりは自然な可視化が可能になった. また,位相幾何学的な方向では,配位空間上でモース理論・コンレイ指数理論を展開するにあたって困難となる,特異点に由来する現象の局所的な解析を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多次元尺度法を用いた可視化については,新たな問題点が見つかりつつも,解決策も見出して順調に進行している. 位相幾何学的な方向はいまだ局所的な解析に留まっているものの,総合的に判断して研究はおおむね順調に推移している.
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Strategy for Future Research Activity |
多次元尺度法については,より精度を上げるために,配位空間上の自然な測地的距離に基づいた距離関数を導入する.現状の手法では,量子化学計算が出力する距離は対称性によって割る前のユークリッド距離を用いており,対称性に由来する特異点の近くではゆがみが生じていると考えられるので,これを測地的距離により改善できるか試みる. また位相幾何学的な方向では,大域的な研究の手始めとして,金原子の3量体など原子数の少ない簡単な場合を toy-model に用いて,同変モース理論等を用いた配位空間のより数学的に自然な記述を試みる.
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Causes of Carryover |
量子化学計算ソフトへの実装を考える上で,有償のものよりも無償のものを優先させたこと,また研究補助者を雇用する時期が都合によりずれた事により,次年度使用額が生じた.量子化学計算ソフトの購入は2019年度内に,また研究補助者の雇用は2019年度の後期に計画されており,これらにより次年度使用額は使用される予定である.
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