2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K18728
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松田 康弘 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10292757)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 絶縁体金属転移 / 化学的カタストロフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
化学的カタストロフィーを固体中で観測できる可能性が高い物質の1つであるVO2に注目して磁場中の赤外光透過の研究を行った。100 T程度の磁場ではVO2には有意な磁場応答が観測されず、物性を支配するエネルギースケールを下げる目的でWをVサイトに6%置換したW-doped VO2について調べた。その結果、100 T程度において2ー3%の小さな透過光強度の減少が観測され、金属化の可能性が示唆された。200 Tを超える磁場は、試料や冷却系も破壊される電磁濃縮法によってのみ発生可能であり、実験には高度な技術が必要となるが、今年度、最高磁場240 T、及び520 Tの2回の実験を行うことに成功した。 240 Tでは比較的高温の130 Kで透過光の減少が120 T付近から起こることが見出され、磁場と共に金属化の傾向が強くなることがわかったが、240 Tにおいても完全な金属化は観測されなかった。520 Tの実験では14 Kの低温で実験を行ったが、興味深いことに、金属化の兆候は130 Kと同様の120 Tで始まることが見出された。また、この実験では、室温での金属相と同程度の電気伝導率に到達するのが約500 Tであることが明らかとなった。これにより、この物質は磁場によって絶縁体から金属に変化することが確かめられた。金属化はバナジウム2量体が崩壊していることを強く示唆しており、V原子の2量体が磁場で壊れる化学的カタストロフィーが検証されたと言える。また、130 Kと14 Kの異なる温度で、金属化の兆候がみえる磁場がほぼ同じであったことは、温度によらずある閾エネルギーが存在することを示しており、現象の定量的理解には電子相関効果も考慮する必要があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来観測例のない、固体中の化学結合が磁場で抑制される“化学的カタストロフィー”現象が、WドープしたVO2の絶縁体ー金属転移として、500 Tという超強磁場においてはじめて観測された。これは研究当初の期待通りであり、研究は順調に進展していると判断できるため。
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Strategy for Future Research Activity |
光透過強度は、概ね電気抵抗率と良い対応関係を示すが、より直接的に絶縁体ー金属転移を観測するために、直接的な電気抵抗率測定をWドープVO2について行う。さらに、2量体の磁場による崩壊を観測するために、磁歪計測も行う。さらに、光、電気抵抗率、磁歪の計測をWドープしていないVO2についても500 Tまで行う。これらの実験から、バナジウム2量体の磁場による抑制と、電子状態の関係が詳しく解明できると期待される。 さらに、CuIr2S4, MgTi2O4, CsW2O6の2量体または3量体形成か起こるこれらの物質についてVO2と同様の一連の実験を行う。
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Causes of Carryover |
電磁濃縮法による200 T以上の実験が研究遂行に必要であったが、装置の不具合や調整に時間を要した。具体的には、2018年4月と7月に起こった磁束濃縮に必要な種磁場を発生させる種磁場コイルの故障と、2019年2月に起こったコンデンサー電源に備わっている高電圧集電板の絶縁破壊による故障である。現在、不具合箇所の修復がほぼ終了し、実験に使用可能な状態となったため、今後は順調に実験が進行し、予算執行も行われると考えている。
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Research Products
(2 results)