2021 Fiscal Year Research-status Report
レーザーコムと新しい近赤外線分光器による、110億年前の微細構造定数の精密測定
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18K18760
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
西山 正吾 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20377948)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 天文学 / 分光 / クェーサー / 赤外線 / 物理定数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、物理定数の変化の有無の検証である。物理定数は宇宙のどこでも、そしていつでも不変であると考えられている。しかしその値を予言できる理論はなく、実験的に測定するしかない。つまりなぜその値になるのか説明できず、それは同時に不変である理由も説明できないことを意味する。本研究では物理定数のひとつである微細構造定数に着目し、その変化の有無の検証を行う。 最初の計画では、高赤方偏移にあるクェーサーを観測し、クェーサーと地球との間にある銀河間物質をとらえることで、110億年前の微細構造定数の値を測定するはずであった。しかし新型コロナ感染拡大もあり、すばる望遠鏡の新しいレーザーガイド星システムの開発に遅延が生じた。クェーサーの観測にはレーザーガイド星システムが欠かせない。よって本来の対象天体であるクェーサーを観測できない状況が続いている。 そこで私たちは観測対象を銀河系の星に変えて、微細構造定数の測定を行なっている。観測対象が変われば、測定方法や解析方法も変わってしまう。そのためまず私たちは、星の観測時に使える元素の吸収線の波長が、微細構造定数の変化にどれくらいの影響を受けるのか調べた。その結果を受けて、星を使った初めての微細構造定数の検証を行った(Hees et al. 2020, Physical Review Letters)。 今年度はこの研究をさらに拡張する研究を行った。観測対象を太陽近傍の星から銀河系の中心まで広げ、数を増やし、微細構造定数の測定を行った。この測定により、銀河系中心からの距離の関数として、0.1光年から4000光年の範囲に渡って微細構造定数の測定が可能になった。この範囲内では、微細構造定数の変化は1万分の1以下である、という制限を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来予定していたクェーサーの観測ができていない。その理由は、すばる望遠鏡に搭載されていた旧レーザーガイド星システムの運行が停止され、新しいシステムが未だに稼働していないからである。旧システムは、経年劣化もあり、本来の性能が出せない状況にあった。そのため2019年に運用が停止されたが、1-2年で新しいシステムが導入されるはずであった。2022年4月の段階で、新レーザーガイド星システムはまだ試験観測の段階である。このような理由から、残念ながらクェーサーの観測には至っていない。 少しでも物理定数の研究を進めるために、星を対象としたデータ解析を進めている。その結果、上記のように、銀河系内での微細構造定数の測定が進んでいる。2023年にはクェーサーの観測を進められるような状況を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年に、すばる望遠鏡の新しいレーザーガイド星システムの試験観測が始まった。3月には望遠鏡にとりつけた高輝度レーザーを用いて、レーザー光の初射出に成功した。新しいシステムでは、従来(4W)に比べて5倍以上である22Wの出力をもつ高輝度レーザーが使用されている。今後試験運用を重ね、2022年後半には共同利用観測として利用できるようになる予定である。 新しいレーザーガイド星システムを用いた観測提案を行い、2023年度前半での観測を目指す。ここ数年、クェーサーの観測プロポーザルを提出することができなかった。その理由は、2019年に旧システムの運用が終了し、レーザーガイド星を使った観測ができない期間があったからである。クェーサーを分離して観測するためには、レーザーガイド星システムが欠かせない。新しいシステムが稼働すれば、観測が可能となる。この機会を逃さず、新しいシステムを用いた観測を提案し、観測時間の確保を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大により、2つの理由から、使用計画に変更が生じた。ひとつめは感染拡大によるすばる望遠鏡新レーザーガイド星システム開発遅延である。このシステムがないと観測ができないため、そもそも観測提案をすることができなかった。結果、観測のために必要な旅費やデータ解析等に必要な議論をするための出張などが不要になった。 また感染状況がよくならなかったため、共同研究者とのミーティングを行うことができなかった。二人の研究協力者(東京、長野)と対面でミーティングを複数回行う予定であったが、それができなかった。このような理由から計画が変更され、期間延長を申請することとなった。
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Research Products
(6 results)