2018 Fiscal Year Research-status Report
diverse galaxies from early formed supermassive black holes
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18K18765
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
森川 雅博 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (90192781)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 超巨大ブラックホール / 量子凝縮 / 暗黒物質 / 暗黒エネルギー / ダークハロー / ドライノイズ / スクイーズド状態 / コヒーレント状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画第1段階に従って,どのような過程で宇宙初期に超巨大ブラックホール(SMBH)が形成されるのか,に関してまず検討を進めた.特に,ボーズ凝縮した暗黒エネルギー(DE)あるいは暗黒物質(DM)が崩壊する過程を,ガウス近似を使い追った.質量が大きな凝縮体であれば,確かにSMBHは形成されることが確認された.しかしこの場合,すべてがSMBHになってしまい,その周りにDMでできたダークハロー(DH)が全く残らないので観測と合わない.そこで現実の角運動量を取り入れた.すると今度は,SMBHは全く形成しないことが分かった.SMBH形成問題の核心は,SMBHとDHの分離であるという認識が得られた. そこで,凝縮体の具体例としてアクシオンを想定した.これは必然的に弱い引力を持っているので現実の角運動量を入れてもSMBHを作りえる.計算すると,SMBHとDHの分離がうまく起こり.アクシオンの観測から許されるパラメター範囲で,分離比が1:10000となり,観測と整合する結果が得られた. さらに,(当初の研究計画にはないが)この研究の基礎として,そもそも量子凝縮がどのように起こるのかという基本問題を考えていった.これは,量子論で記述される体系がどのように古典量としての秩序変数を生み出すのか,という問題である.そしてこれは,初期宇宙において,インフレーションにより量子宇宙が構造の種を持った古典宇宙に移行する重要な過程をも含む.この過程の核心は,1)系の持つ不安定性や宇宙膨張によって,まずスクイーズド状態が生成されるという第1過渡段階と,2)これが作る古典的ドライノイズがスクイーズド状態を巨大化させるという第2過渡段階,の組であることが分かった. まとめると,SMBH形成の問題は,より根源的なDE・DMの進化と密接な関係にあり,宇宙のより広域・より初期の物理と密接に関連することが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
正確にはこの(1)のカテゴリーにはない.「計画以上」ではなくて「発展的に」となる. 当初の研究計画第1段階に従って,どのような過程で宇宙初期に超巨大ブラックホール(SMBH)が形成されるのか,という問題は,暗黒物質を含めてダークハロー(DH)との形成割合は何によって決まるのか,という発展的な問題に置き換えられた.それに対して,角運動量とアクシオンの引力を考慮し,実現可能なパラメーターから,観測と整合する形成割合を求めることができた. しかしここでは,ボーズアインシュタイン凝縮体(BEC)の存在とその解離のダイナミクスは既存の知識内で議論された.そのようにBECダイナミクスの過渡過程が不明のままだと,銀河のジェットやバルジ,クランプ構造,シェル構造などの,観測と密接に関連した,特有の詳細を議論することができない. そこで,この量子から古典への過渡過程を詳細に追ってみた.すると,この過程には2つの欠かせない過渡過程が絡んでいることが分かった.これは上項目で述べたとおりだが,これらを結び付けているのはドライノイズという古典自由度であることが分かった.これはエネルギー散逸を伴わない純粋な揺らぎであり,相互作用がなければ発現しない.宇宙論ではこの揺らぎを「粒子生成」と呼んだり,いきなりBHが蒸発すると混乱しているが,量子論なので相互作用がなければ何も起きない.また情報理論では,BHの持つ情報が無限未来で回帰したりする状況を想定しているが,相互作用を考えていないので,そのような非現実的な現象が起こる. 実際には,相互作用があり,ドライノイズは観測可能な物理量と結合し,その古典的な時間発展として痕跡を残す.これがBECでありSMBHを作ることになる.さらに加速膨張宇宙では,場が持っている赤外発散したドライノイズは,相互作用を通じて,観測される密度揺らぎスペクトルという痕跡を残す.
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Strategy for Future Research Activity |
3段階a)b)c)からなる本研究において,a)どのような過程で初期にSMBHが形成されるのか,に関してはアクシオンの場合には観測と整合する結果が得られた.しかし未発見粒子アクシオンに頼らなくても,SMBH形成を阻害する角運動量が非常に小さかった,揺らぎ成長の,初期段階にさかのぼれば,SMBH形成とそれのDHからの分離は可能であると考えられる.実際予備的計算からそれが可能でありそうだ.まずこれを確立する.すると,SMBH形成が宇宙の非常に初期しかありえない,という結論が得られるだろう. b)そのSMBHが作る多様な銀河形成を解く.および c)それをどのような観測で検証するのか.に関しても順次議論を進めていく予定.まず着目するのは,最近発見されつつある超拡散銀河(UDG)である.DM成分が殆どだったり,DM成分が殆ど無かったり,という極端な淡い銀河であり,SMBHが星形成とどう関わっているのかを考察する最良の対象でもある.SMBHが銀河衝突などを経てDHから遊離し野良となりガス雲の中で星形成を促進しているのか,あるいは近隣の大きな銀河のSMBHによるジェットのトリガーを受けているのか,複数モデルを作って観測と比較検討していく予定である. さらに,ジェットの形成や銀河の淡いシェル構造などにも着目したい.そのためには,今回発展的に進めているBECの基礎の研究が欠かせない.1)例えば,ジェットとBECの位相欠陥(渦糸)・粒子加速・離散的なジェット内の構造との関連を議論したい.ジェットの長く伸びた1次元構造は流体的な構造とはかけ離れている.折れ曲がりもありうる1次元性を説明するために最適なのは位相欠陥構造である.2)さらにシェル構造を説明するために,散逸性を考慮したグロスピタエフスキー(GP)方程式が必要になる.これとガウス近似が整合するために散逸系を扱うラグランジアンを開拓する.
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Causes of Carryover |
GPU計算ユニットを購入する予定であったが,それを利用する大規模数値計算用のプログラムの開発が遅れている.どうせ今年度は利用できないので,GPUユニット購入は次年度に回したほうが性能が上がっている可能性が高い.
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Research Products
(6 results)