2018 Fiscal Year Research-status Report
電場と音場を用いた水溶液中の生物由来物質の運動促進による氷成長の制御
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18K18823
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
萩原 良道 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (50144332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和久 友則 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 助教 (30548699)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 熱工学 / 凍結 / 生物由来物質 / 電場 / 音場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、食材の保存・輸送と冷凍・冷蔵食品の製造・保存、幹細胞の保存、移植用組織と臓器の保存に用いられる氷・水混合体の氷成長を抑制することに焦点を絞り、高い安全性を保てる不凍ポリペプチドとセルロースナノファイバーを氷・水混合体に添加したうえで、電場と音場を付与して、これらの物質を氷表面に接近・衝突させ効果を高める新しい方法を確立することを目的とする。初年度である2018年度には、以下の結果を得た。 1.低温恒温室内において、0.02㎜の狭い隙間に線維幅の小さいセルロースシングルナノファイバー、セルロースナノクリスタルあるいはカルボキシメチルセルロースを含む水を入れ、片側から電子冷却器により冷却して得られる一方向凍結に関する測定を行った。その結果、不凍タンパク質と同様に氷結晶が微細化すること、繊維幅の小さいセルロースシングルナノファイバーおよびカルボキシメチルセルロースの場合に氷界面の温度低下が著しいことが明らかになった。 2.氷成長抑制効果が得られたポリペプチドの希薄水溶液を用いて、1と同じ一方向凍結実験を行った。このとき液体中の18㎜離れた微小電極間に直流電場を印加した。その結果、電極近傍において氷成長抑制効果が向上することがわかった。また,観察領域ごとに界面の形状と移動速度が場所により異なること、方形波状の電圧印加によりさらに氷成長を抑制できることがわかった。 3.微細流路中の氷粒子・水混合体に冬カレイ由来不凍タンパク質を添加した場合について氷粒子の成長に関する測定を行い、以下の結果を得た。不凍タンパク質による氷粒子成長抑制効果は、水が流れている場合には静止水の場合と比較して低い。不凍タンパク質水溶液を短時間予熱すると、氷粒子成長抑制効果は低下した。この予熱した水溶液に、限外ろ過処理を施すことにより、氷成長抑制効果が向上する場合があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.不凍ポリペプチド水溶液の一方向凍結実験に関して、まず印加する直流の電圧、方形波の周期などの影響を調べた。電極における電気分解の影響も考慮して、交流の印加も行った。つぎに氷・水界面位置の形状と時間変化結果より、氷成長抑制効果が場所と時間によって異なることから、電極の位置と形状を変えて測定を行った。そのため、当初予定していた予熱後限外ろ過した不凍ポリペプチド水溶液の一方向凍結実験は2019年度に検討する。 2.予定していたセルロースシングルナノファイバー、セルロースナノクリスタルあるいはカルボキシメチルセルロースを含む水の一方向凍結実験に関して、氷成長抑制効果が確認できたので、その効果を強める方法について検討した。他者の先行研究は、電場をかけることによりこれら細長い物質の方向が揃うことを示しているので、当面電場を用いることとした。 3.動的光散乱法による不凍ポリペプチド凝集体とセルロースナノファイバー凝集体のサイズの分布の測定は、2019年度に検討する。 4.計画では2019年度に実施予定の微細流路内の氷粒子・水混合体の氷粒子成長抑制に関しては、参照データとなる不凍タンパク質を添加した場合の測定を行った。その結果から、不凍ポリペプチド凝集体とセルロースナノファイバー凝集体の結果の予測が可能となり、今後の研究計画を効率的に行えることが予想される。 5.計画では2019年度に実施予定のフェーズフィールド法を用いた凍結現象を予測する数値シミュレーションに関連して、凍結による体積増加を予測することに成功した。 以上のことより、1,3は予定より遅れているものの、2は予定どおりであり、4、5は予定より進んでいることから、総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画および昨年度の進捗状況に鑑み、2019年度は当初計画を一部修正することとした。2019年度の推進方策について、その概要を以下に示す。 1.電極の位置と形状、および印加電圧などの最適条件が得られれば、前年度に行えなかった予熱後限外ろ過したろ液あるいはセルロースナノファイバー水溶液の一方向凍結実験を行う。 2.微細流路に電極を設置して電場を付与する実験を行い、電極や電圧を定める。前年度に得られた微細流路内の氷粒子・水混合体の不凍タンパク質添加による氷粒子成長抑制の測定結果をもとに、不凍ポリペプチド凝集体とセルロースナノファイバー凝集体を添加して、微細流路内の氷粒子・水混合体の氷粒子成長抑制の測定を行う。可能であれば、音場の付与の影響を調べる。 3.前年度に得られた結果をもとに、フェーズフィールド法を用いた氷粒子・水混合体流れの数値シミュレーションを行う。 4.すべての結果と考察をまとめ、電場と音場付与による凝集体の氷成長制御のメカニズムを明らかにする。学会講演会などの機会を捉えて、研究成果を発表するとともに、情報交換を行う。なお、国際共著論文の作成も行う。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況欄に記載したように、当初予定していた予熱後限外ろ過した不凍ポリペプチド水溶液の一方向凍結実験を2019年度に変更した。このことにより、不凍ポリペプチドの合成の委託が予定より少なかったことによって次年度使用額が生じた。なお、金額は少ないので、2019年度経費と併せて、この合成委託を行う。
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