2018 Fiscal Year Research-status Report
気液界面の非平衡輸送に対する分子動力学に基づく漸近理論
Project/Area Number |
18K18824
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
矢野 猛 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60200557)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 分子動力学 / ボルツマン方程式 / 気液界面 / Knudsen層 / 漸近理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、次年度に非平衡問題に取り組むことを前提として、気液2相系に対する分子動力学計算に現れるゆらぎについて理解を得ることを目的とした解析を実行する。ここで、次年度に取り組みたいと考える非平衡問題とは、通常の流体力学的問題に気液界面が含まれる場合に、必然的に生じる界面近傍の平均自由行程程度の領域の気体の非平衡な振る舞いを明らかにするという問題である。気液平衡系では分子動力学計算による解の特性がさまざまな観点から調べられているが、いずれも、極限において平衡状態の熱力学状態量に収束することを暗黙の前提としており、極限において消滅するゆらぎは考察の中心とはなっていない。したがって、分子動力学計算に現れる平衡状態のまわりのゆらぎの特性への理解は、未だ十分ではない。さらに、平衡状態のまわりのゆらぎを線形非平衡現象とみなすならば、ゆらぎへの理解が不十分なままでは、非平衡問題に取り組むことができない。 具体的には、直方体の計算セルを用いて、その中央部にLJ分子からなる液膜を置き、周囲を同じ分子の蒸気で満たす計算を行っている。分子間力ポテンシャルには、カットオフ半径を5とするLJポテンシャルを用いる。運動方程式の積分にはleapfrogスキームを用いて、計算セルの全面を周期境界条件としてNVE一定の計算を行う。計算セルの大きさは、気体領域の縦方向の長さが平均自由行程の10倍程度になるように、Lzを大きく設定している。一方、横方向の長さは平均自由行程の2倍程度とする。これによって、巨視的な意味で空間1次元問題を扱うことになるが、これは分子気体力学におけるKnudsen層解析と整合する設定である。 以上の設定のもとで、長時間にわたるNVE一定の分子動力学計算に現れるゆらぎの解析を実行する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
気液2相系に対する分子動力学計算に現れるゆらぎについて理解を得ることを目的とした解析を実行するために、大規模で長時間の分子動力学計算を実行中である。計算セルの大きさが、縦方向の長さが気体分子の平均自由行程の10倍程度であり、横方向の長さが平均自由行程の2倍程度としているので、計算系の分子数は50万程度である。このような計算系に対して、数か月の期間にわたって数マイクロ秒程度(計算ステップ数が10の9乗程度)の分子動力学計算を実行することは、当初計画のとおりである。この計算系における平衡状態まわりのゆらぎの特性を明らかにするための、ゆらぎ解析のための準備も予定通りに進行している。また、気液界面における相変化をともなう気体の流れに対するボルツマン方程式の数値解を整備し、分子動力学による解との漸近的接続のための準備も、当初計画のとおりに進行している。
|
Strategy for Future Research Activity |
代表者は、境界条件を一般化することによって、ボルツマン方程式の境界値問題の可能な解をすべて含む表現を2008年に得ている。そこに含まれるひとつのパラメータを調節すれば、原理的に(数値誤差を除いて)、分子動力学計算による気体領域の解と一致させることが可能である。ボルツマン方程式の解と分子動力学の解を一致させるパラメータが、適切な気体論境界条件を与える。同時に、局所平衡の気体の流れを記述する流体方程式のための境界条件も定まる(Yano, 2008)。これを実行するために、以下に述べるように注意深い分子動力学計算が必要である。まず、ボルツマン方程式の解は、界面から十分に遠方の局所平衡状態の気体と相変化が生じている気液界面の間の領域を満たす非平衡気体を記述する。この非平衡領域は気体分子の平均自由行程の数百倍以上の大きさ(数十マイクロメートル) であり、分子動力学法でこれを計算することは効率的でない。既にすべての点における速度分布関数が十分な精度で得られているので、気液界面から平均自由行程の10 倍程度離れた位置に仮想境界を設定し、そこで、境界条件に従う速度分布をもつ分子を計算領域内へ入射させる。多数の分子動力学計算を実行し、分子動力学計算の結果として得られる速度分布関数と、ボルツマン方程式の解として既に得られている速度分布関数が界面近傍の非平衡気体領域で一致するように前述のパラメータを定める。これによって、気液界面におけるボルツマン方程式に対する気体論境界条件が定まり、同時に、平均自由行程に比べて十分に大きなスケールの局所平衡の気体の流れを記述する流体方程式のための境界条件も定まる。なお、定常蒸発状態あるいは定常凝縮状態を実現するために周期境界条件を用いないこと、および、液体領域の温度を制御しないことも重要である。このようにして、今後の研究を推進する。
|
Causes of Carryover |
交付決定時に物品費として計上していた計算機よりも高性能の新機種の計算機が発売されて、研究計画の一層の進展を意図して新機種を購入した(正確には、最新CPUを含む単体パーツごとに購入し、代表者自身が計算機を組み立てた。したがって、50万円を超える備品は購入していない)。結果として、物品費が交付申請額を超過した(変更手続きが不要な範囲の超過)。これにともなって、旅費等の他の費目の支出を調整する必要が生じた。研究計画の進展を妨げない範囲で各費目の支出を調整した結果、5万円弱の次年度使用額が発生した。これを無理に消費するのではなく、有効に活用するために、次年度使用額として残した。
|
Research Products
(1 results)