2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K18846
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90323443)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | プラズマ医療 / 癌治療 / 免疫治療 / メラノーマ / 転移抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまでの研究で、放電プラズマをマウスの癌に照射すると、癌に対するマウスの免疫が高まり、切除した癌の再発抑制や全身の癌に対する抗癌効果が得られる可能性を動物実験で示してきた。本研究ではこれを発展させ、放電プラズマをマウスの癌に照射して癌に対するマウスの免疫を高め、癌の転移を抑制できるかどうかを動物実験で検証する。 本年度は、皮膚癌の一種であるマウスメラノーマ細胞(B16F10)を用いて実験を行った。このB16F10はマウスの肺に転移しやすいことが知られており、転移を調べる実験に適していると考えられる。マウスの右脚に癌細胞を皮下注射して腫瘍を作り、プラズマ照射を1日10分間で5日間行った。その後、腫瘍を切除し、プラズマ照射により誘起されたマウスの免疫が活性化するのに2週間程度時間をあけた。2週間後、今度はマウスの尾静脈から癌細胞を注射して、これが肺に転移する様子を測定した。その結果、プラズマ照射をしなかったマウスに比べて、プラズマ照射をしたマウスの肺転移が抑制されたことを示唆する結果が1回目の実験で得られたが、2回目の同じ実験ではどちらかというと逆の傾向を示す結果が得られた。この実験は非常に難易度が高いため、まだ適切な実験条件および実験手法が得られておらず、これは次年度の課題となる。また、予想に反して肺以外にも様々な箇所にB16F10が転移してしまっており、これも実験を乱す要因となった。 次年度もメラノーマを使った実験を予定しているが、B16F10は転移能が強すぎて実験がうまくいかなかった可能性も考慮し、転移能の弱い別の癌(大腸癌CT26)を用いた予備実験も初年度に平行して行った。また、プラズマのどの活性種が効いているかを調べる研究の一環として、ストリーマ放電の活性種計測の研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となる今年度は、皮膚癌の一種であり、また肺転移しやすいことでも知られているマウスメラノーマ細胞(B16F10)を用いた。「研究実績の概要」でも記したように、マウスの右脚に腫瘍を作り、プラズマ照射を5日間行った後に腫瘍を切除した。その後、プラズマ照射で誘起された免疫が活性化する期間を2週間あけて、今度はマウスの尾静脈から癌細胞を注射し、これが肺に転移する様子を測定した。肺転移の様子をプラズマ照射していないマウスと比較し、プラズマ照射の効果を調べた。同じ実験を2回行ったが、1回目はポジティブ、2回目はややネガティブな結果が得られた。 実験ではB16F10細胞に発酵酵素ルシフェラーゼを付与したB16F10-lucとよばれる特殊な細胞を用いることで、IVISと呼ばれる装置でマウスの体内の癌腫瘍をレントゲンのように透過して観測する技術を用いた。その結果、肺転移した癌の定量評価を行うことができたと同時に、予想に反して肺以外に転移してしまった癌も多数存在することが明らかになった。 以上のように、初年度の実験は改良の点が多々あるが、まずは難易度の高い転移抑制効果を調べる実験を、実際に行えたこと自体が大きな成果である。本実験の問題点も、いくつか明らかにすることができた。また、B16F10の転移能が強すぎて実験がうまくいかなかった可能性も考慮し、転移能の弱い別の癌(大腸癌CT26)を用いた予備実験も平行して行ったことも本年度の研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の実験を継続するが、初年度に明らかになった問題の改善を図る。第一に、2回の実験で異なる結果が出た件について、プラズマによる免疫の活性化が弱かった可能性がある。改善策として、プラズマを5日間照射後にすぐに切除していた原発腫瘍の切除時期を延長し、免疫細胞が腫瘍に作用する期間を延ばすことが考えられる。この切除時期を遅くしすぎると、原発腫瘍が大きく成長し、マウスに苦痛を与えるエンドポイントに達して実験を終了しなければならなくなる。その前に腫瘍を切除する必要があり、時期の見極めが必要となる。少なくとも、切除時期をあと数日は延長できる可能性がある。 第二に、肺以外への転移を抑制する必要がある。これは容易ではないが、転移能の強いB16F10に変えて、転移能の弱い別の癌種CT26を用いることがひとつの方法である。しかし、この場合、肺への転移も弱くなるため、実験が成立しなくなる可能性もある。肺以外への転移も許容してB16F10を用い、すべての転移を合算して評価する方法もあるが、異なる臓器への転移をどのように定量化するかは難しい問題である。厳密な定量性を放棄して、おおまかに転移抑制効果があるかどうかのみ調べる方法もある。 肺転移の評価方法では、IVISを用いるよりも、マウス安楽殺後に取り出した肺を顕微鏡で観察したり、肺の質量を測定して転移を調べる方法が一般的である。この手法では、転移能の弱いCT26や肺癌などを用いた実験が多くの論文でなされており、これらの実験手法を踏襲することも考えている。
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Causes of Carryover |
B16F10のマウスの肺への転移実験がうまく予想通りにいかず、動物実験に遅れが生じていることが理由に挙げられる。その結果、マウスの購入費、飼育費、分析用の試薬代等の支出の一部が次年度に持ち越しとなった。翌年度に行うマウスの実験で、持ち越し金を使用する予定である。また、ストリーマ放電の活性種計測に使用するレーザーに不具合が発生したため、こちらの実験にもやや遅れが生じており、翌年度のレーザーの整備費用としても使用する予定である。
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Remarks |
なし
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Research Products
(11 results)