2018 Fiscal Year Research-status Report
工具の超長寿命を実現する自己潤滑性トライボロジーハードコーティングの創成
Project/Area Number |
18K18932
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須藤 祐司 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80375196)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 摩擦摩耗 / 硬質被膜 / 耐摩耗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、次世代コーティング材料の学理を構築し、工具の超長寿命化を実現する自己潤滑性トライボロジーハードコーティングの創成を目指す事を目的とし、本研究期間においては、特に、摩耗酸化によりMo酸化物を自己形成するTi-Mo炭化物コーティングについて、その硬さや摩擦摩耗特性に及ぼすスパッタリング成膜条件の影響を詳細に調査し、以下の知見を得た。 (1)ナノインデンテーション硬さに及ぼす成膜圧力の影響を調査した結果、概して、成膜圧力の増加に伴い、コーティングの硬さは低下した。これは、低い成膜圧力で成膜したコーティングは、微細な結晶粒径を呈するためホールペッチ効果により硬さが上昇すると同時に、低圧力成膜では、成膜時にコーティング内部に大きな圧縮応力が導入される事により硬さが上昇する事が明らかとなった。 (2)室温におけるボールオンディスク試験により、コーティングの摩擦係数に及ぼす成膜圧力の影響を調査した結果、室温における摩擦係数は、成膜圧力の増加に伴い上昇する事が分かった。これは、成膜圧力の増加に伴い、コーティング表面のラフネスが増大する事に起因し、相手材が溶着する事により、更なる摩擦係数の上昇を招いている事が分かった。 (3)低い成膜圧力にて成膜したコーティングは、微細な結晶粒を有するため、高硬度を有する反面、粒界を通じて酸素がコーティング内部へ侵入し易いため耐酸化性に乏しく、高温での摩擦摩耗により、相手材によって容易にコーティングが削り取られてしまう事が分かった。それに対して、高い成膜圧力にて成膜したコーティングは粗大な結晶粒を呈し、低い成膜圧力にて成膜したコーティングに比較して、良好な耐酸化性を示す事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ti-Mo炭化物コーティングは、摩耗酸化によりMo酸化物が自己形成できるため、高い硬度かつ低い摩擦係数を両立する耐溶着性に優れるコーティングである。しかし、そのコーティング性能は、成膜条件や成膜装置が異なると、ばらつきが生じたり、同様の性能が発現しないなど、コーティング性能を極限まで引き出す手法が確立されていなかったばかりか、そのばらつきや性能が異なる要因を突き止められていなかった。そのような背景の下、2018年度は、様々なコーティング性能に及ぼすスパッタリング成膜条件の影響を詳細に調査する事で、コーティングの内部結晶組織や表面ラフネス、また、スパッタリング成膜時に導入されるコーティング内部の圧縮応力などが、コーティング性能に大きな影響を及ぼしている事が明らかとなった。その結果、各種コーティング性能とそれらコーティングの組織との関係を明確にすることが出来た。特に、各種コーティング性能は概してトレードオフの関係にあり、コーティングを使用する用途によって、適切な成膜条件を設定する事が重要である。以上のことは、自己潤滑型の次世代コーティングの材料設計に極めて重要な指針を与えるものである。よって、当初の計画通りに本研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も、引き続き、種々のセラミックコーティングについて、それらコーティング性能に及ぼすスパッタリング成膜条件の影響について調査を行う。また、炭化物コーティングのみならず、酸化物コーティングの摩擦摩耗挙動を調査する。特に、本研究では、摩擦摩耗による高潤滑性摩耗紛を自己形成する事を目論んでいるが、どのような酸化物が高潤滑性の観点から最適であるのか、酸化物自体の摩擦摩耗や摩擦係数についても調査を行う予定である。また、セラミックコーティングの硬さは価電子濃度に依存する事から、電子のバンド占有率がコーティング材料の弾塑性変形に影響を与えている事が示唆される。それ故、今後は、コーティングの高硬度化の指針について、電子論的な立場から、各バンド占有率に及ぼすコーティング組成(価電子濃度)の影響について考察を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
サンプル作製に必要なスパッタリングターゲットが、当初想定したよりも消耗が少なく、予定よりも長く本研究計画に供する事が出来き、種々の検討を行う事が出来た。それ故、次回に使用するターゲット組成を詳細に検討するため、その分であるターゲット購入費用分を次年度へ繰り越した。次回ターゲット組成について、前年度の結果を踏まえ、次年度直ぐに決定し、また、次年度の使用計画に従って本研究を遂行する。
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