2018 Fiscal Year Research-status Report
高スピン軌道相互作用酸化物ヘテロ構造での磁気スキルミオンの創出とナノスケール観察
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18K18935
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
福村 知昭 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (90333880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡 博文 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (70374600)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 走査型プローブ顕微鏡 / 酸化物エレクトロニクス / エピタキシャル成長 / スキルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
パルスレーザー堆積法(PLD)-低温走査型トンネル顕微鏡(STM)システムを用いて、電気伝導性をもつSrTiO3基板にSrVO3薄膜を作製し、低温STMによるin-situ観察を行った。その結果、膜厚4 nm以下の超薄膜において、原子構造と電子状態の異なる2つの表面が共存していることを発見した。この実験を通じて、PLD-STMシステムによる薄膜作製から低温STM観察に至る一連の実験フローの確立に成功した。 絶縁体であるLaAlO3基板にアナターゼTiO2をPLDで作製し、低温STM観察を試みた。まず、抵抗加熱法を用いて、これまでのような導電性基板でなく、絶縁体基板を高温加熱する方法を開発した。その結果、TiO2薄膜のエピタキシャル成長には成功したものの、薄膜の電気伝導率が低く、STM観察を行うことができなかった。これは、TiO2薄膜作製時の酸素分圧が高く、十分な酸素欠損を薄膜中に導入できなかったからだと考えられる。そこで、酸素分圧を下げてTiO2薄膜を作製したところ、低温STM観察が可能な薄膜の作製に成功し、薄膜表面が(1×4)再構成構造をもつことを確認した。この結果は先行研究と一致する。希土類単酸化物薄膜の作製には薄膜作製中の酸素分圧が重要なパラメータとなるため、四重極型質量分析計を導入し、酸素分圧を精密に制御した上で作製する必要があることがわかった。 PLD-STMシステムでスピン偏極STMを行うため、強磁性材料を探針先端に蒸着する機構を組み上げ、システムに取り付ける準備が完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で要求される要素技術「PLDによる薄膜作製から低温STM観察に至る一連の実験フローの確立」、「絶縁基板にPLDで作製した薄膜の低温STM観察」、「PLD-STMシステムにおける強磁性材料の蒸着機構の準備」を達成することができ、希土類単酸化物薄膜の実験とスピン偏極STM観察が可能になったため。
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Strategy for Future Research Activity |
PLD-STMシステムを用いて、絶縁体であるYAlO3基板上に強磁性半導体EuOエピタキシャル薄膜を作製し、低温STMによるin-situ観察を行う。STMによる表面構造の評価、X線回折法による結晶構造評価から、原子レベルで平坦かつ幅の広いテラスをもつEuO薄膜が得られるように、薄膜作製条件(基板温度、酸素分圧など)を最適化する。酸素分圧に関しては、購入した四重極型質量分析計を用いて精密に測定を行う。 PLD-STMシステムにおいて強磁性体探針を作製し、スピン偏極STM観察を行う。まず、すでに実績のある強磁性Coナノ構造やCoドープTiO2を用いて、スピン偏極信号の検出を確認する。その後、EuOエピタキシャル薄膜のスピン偏極STM観察を行い、磁気スキルミオンの観察を試みる。さらに、ホール抵抗測定において磁気スキルミオンの生成を示唆する結果が得られている希土類単酸化物ヘテロ構造のスピン偏極STMへと展開する。くわえて、EuO/LaO強磁性・超伝導へテロ接合を作製し、磁気伝導特性に加え、ミクロスケールにおける磁性と超伝導の共存状態の観察に取り組む。
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Causes of Carryover |
直線導入機構の新規購入を予定していたが、現有品でも実験可能であることがわかったため、購入を取りやめた。一方で、薄膜作製に酸素量の精密制御が必要であることがわかったため、質量分析計を購入した。また、本研究で要求される要素技術の確立に向けて低温STM観察を行った際に、寒剤として液体ヘリウムではなく主に液体窒素を用いた。それにより必要な寒剤費を抑えることができた。以上の理由から、次年度使用額が生じた。 次年度では、スピン偏極STM観察を行うため、熱ドリフトのさらなる抑制や探針先端の磁化状態の安定化が必須となり、液体ヘリウム温度での実験がメインとなる。そこで、次年度使用額を液体ヘリウムの使用料金に充て、十分な液体ヘリウム温度での実験回数を確保する。
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