2018 Fiscal Year Research-status Report
放射光を利用したアーク溶接現象の可視化による凝固割れの解明
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18K18947
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
柳楽 知也 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (00379124)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | アーク溶接 / その場観察 / 凝固割れ / X線イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高輝度、高平行度の単色X線が得られる放射光X線イメージングを利用して、アーク溶接時の凝固過程で発生する凝固割れの形成過程を高時間分解かつ高空間分解でその場観察を行い、凝固割れの形成機構について解明する。本年度は、Al合金を対象にアーク溶接の一種であるTIG(Tungsten inert gas)溶接中に発生する凝固割れをX線イメージングを利用してその場観察が可能な実験装置の開発を行った。アークの発生、ステージの駆動、透過像の撮影などの一連の操作を遠隔で行うことのできるシステムを構築した。 凝固割れが生じやすく、イメージングによるその場観察が容易なAl-10wt.%Cu合金を対象とした。初晶Alは、柱状晶のデンドライトとして成長する。また、初晶Alの形態が凝固割れに対する影響を調べるために、Al-Ti-B合金を0.3wt.%添加し、等軸晶のデンドライトから成る試料も準備した。 柱状晶のデンドライトのAl-10wt.%Cu合金の試料の場合、クレーター部において、初晶Alが左右から成長して、中央付近で対峙し、その領域でチャネル状のCuが濃化した液膜が形成された。その後、凝固収縮により、引張応力が働き、力学強度の弱い液膜部分で左右に開口した。開口した幅が約50ミクロン以上になると、周囲から液相が補給されず、空隙の発生が起点となり凝固割れが発生した。本研究で開発した実験装置により、凝固割れが発生する過程を明瞭にその場観察することに成功した。一方、初晶Alが等軸晶のデンドライトの場合、凝固割れは発生しなかった。これは、微細な等軸晶のデンドライトの晶出により、収縮ひずみによる引張応力が一か所に集中しなかったためであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画通り、TIG溶接中で発生する凝固割れをX線イメージングを利用してその場観察可能な実験装置の開発を行うことに成功した。Al-Cu合金の場合、クレーター部においてデンドライトの成長過程、凝固割れの発生および進展過程をミクロンスケール近い空間分解能でその場観察することが出来た。また、初晶の形態が凝固割れに及ぼす影響についても明らかにすることが出来た。さらに、得られたX線透過像を基に、凝固割れ発生時のひずみ分布やデンドライトが対峙する領域やデンドライトアーム間の液膜の濃度分布などの定量評価を行うことができ、凝固割れ発生機構に繋がる多くの知見が得られた。ただし、溶接中の割れにおいて重要となるビード途中の凝固割れに関しては、凝固速度が速いため、十分な精度で組織形成の変化をその場観察することが出来ず、装置の改良も含めて今後の検討が必要である。以上の点を踏まえて、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として、Al合金だけでなく溶接中の凝固割れが問題となっているステンレス鋼も対象にその場観察の実験を行う。ステンレス鋼の場合、含有するクロムとニッケルの量比によって、オーステナイトとフェライトと呼ばれる2種類の結晶相の割合が変化する。オーステナイトのみで凝固する場合(Aモード)、Al-Cu合金と同じようにデンドライトが直線的に対峙しやすいため、凝固割れが発生しやすい。一方、オーステナイトだけでなく、相変態してフェライトが5%以上混合して凝固する場合(AFモード)、凝固割れが抑制されると報告されている。ステンレス鋼に含まれるリンやイオウは、液膜の形成を促し、凝固割れの発生の要因となるが、フェライトは、それらの元素を固溶する効果がある、また島状に晶出するため、割れの進展を阻害する効果があると指摘されている。そこでX線イメージングを利用して従来報告されているフェライトの影響を検証する。また、本課題では、凝固割れの発生温度も同時に評価するために、熱画像カメラによる温度測定も行う予定である。X線イメージングとの組み合わせにより、実際に凝固割れが発生、進展する温度範囲を正確に評価することができる。また、粒界に偏析して低い温度まで液膜を形成しやすいリン濃度を変化させて、凝固割れに及ぼす影響についても調べる。
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Research Products
(6 results)