2018 Fiscal Year Research-status Report
半導体単結晶中の貫通転位と点欠陥とを透視する絶対定量評価装置の開発
Project/Area Number |
18K19028
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小島 一信 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (30534250)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷川 智之 東北大学, 金属材料研究所, 講師 (90633537)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 窒化ガリウム / 全方位フォトルミネセンス / 多光子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
省エネルギー・持続可能な社会を実現するために、高効率な太陽電池や照明用素子の実用化、さらには電気自動車や鉄道向けのパワートランジスタの高性能化・高信頼化が必須である。こうした高性能・高信頼素子の開発に向け、窒化物半導体やペロブスカイト半導体は極めて魅力的な材料である。一般的に、太陽電池や半導体発光素子の効率低下、トランジスタのオン抵抗や各種半導体素子におけるリーク電流の増大は、半導体単結晶の完全性を乱す結晶欠陥に起因する。昨今の結晶成長技術の向上の恩恵を受け、このような結晶欠陥の密度は減少傾向にあるが、わずかに残る結晶欠陥が素子の特性を大きく劣化させている例は多い。この問題に対し代表者らは、積分球を用いた全方位フォトルミネセンス法に基づく発光量子効率の絶対定量による結晶性評価技術と多光子吸収顕微鏡による3次元発光イメージング技術とを融合し、貫通転位や点欠陥の空間分布を定量評価できる欠陥透視装置を開発することを目標に研究を進めた。
本年度は、多光子吸収過程によって結晶内部発生した励起点を起点として、放出される光のスペクトル形状を詳細に評価することに重点を置いた。このような光は、自己吸収過程によって強く減衰し、スペクトル形状の変調として顕在化することが予想される。計測を行った結果、励起点の表面からの距離に応じて、自己吸収端エネルギー前後におけるスペクトル形状の変調が極めて顕著であり、さらに、発光強度についても著しい変化が生じることが分かった。特に、結晶表面から数マイクロメートルより深い部分から放出される光のうち、自己吸収端エネルギーよりも高エネルギーの光は完全に自己吸収によって消滅した。このことから、スペクトルの短波側形状の変化が極めて大きいことが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全方位フォトルミネセンス法によって得られる発光スペクトルと、多光子励起顕微鏡によって得られる結晶深部からの発光スペクトルの形状を比較したところ、当初の予想通り、自己吸収エネルギーよりも低いエネルギー領域では同一の形状が得られることが分かった。このことは、あらかじめ全方位フォトルミネセンス法によって発光効率を評価(マクロ測定)しておいた後、スペクトル形状を照らし合わせることによって、与えられた深さにて計測した多光子励起発光スペクトルから、その地点における発光効率を評価できる可能性を示している。
また、全方位フォトルミネセンス法においては、励起光を減衰させる光学フィルタが必要であるが、多光子励起の場合は発光の長波長側にレーザスペクトルが出現することになるので、適切なロングカットフィルタの設計が肝要となる。本年度は、これについてもある程度のめどをつけることができたので、装置の構築に向けて、必要な要素の準備が整ったと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、準備が整った要素を組み合わせて、実際に貫通転位と点欠陥の空間分の双方を可視化できる計測装置を組み上げる予定である。直接遷移型の結晶において、発光効率は一般的に、光励起された少数キャリアが貫通転位ないしは点欠陥に由来する準位に捕獲され、非輻射的に消滅する過程にて減少する。このため、特にこのような欠陥はバンド端(NBE)発光に寄与しない非輻射再結合中心(NRC)と呼べる。しかし、点欠陥は原子サイズの欠陥であるため容易には可視化できない。申請者はすでに、積分球に基づく絶対発光(PL)測定から、発光効率と点欠陥濃度の相関関係(発光強度とPD濃度の検量線)を、別途マクロな光学測定によって得つつある。したがってこの知見を用いれば、本研究で得られる発光明暗の二値情報ではなくその階調に物理的意味を見出し、貫通転位と点欠陥の双方を分離して評価できる可能性がある。このために、適切な実験条件の探索や、励起キャリアの輻射/非輻射再結合・結晶における自己吸収・空間的拡散等を考慮した発光像の数理モデル解析法を見出す。
|
Causes of Carryover |
研究を開始し様々な発光材料の発光効率を評価したところ、試料ごとに想定よりも大きな効率のばらつきが存在した。このため、特に多光子励起過程における励起光の適切な減衰方法を見定めるために時間を要し、本格的な実験装置の構築は次年度の予算と共に実施したほうが合理的であると判断したため。ただし、本年度中に得られた実験データを基に、次年度に予定していた光学系の設計を先行して実施したため、実験計画に遅れはない。
|
Research Products
(4 results)