2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K19030
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芦原 聡 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10302621)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 超短パルスレーザー / 非線形光学 / アト秒科学 / プラズモニクス / ナノマテリアル |
Outline of Annual Research Achievements |
作用する光の電場が物質中のクーロン電場に匹敵するほど強くなると,物質は超高速かつ巨大な光学応答を示す.瞬時瞬時の光電場に応じて電子状態および電子波束が駆動され、高周波の電流や電磁波が生み出されるのである(光電場駆動現象).高次高調波発生(High harmonic generation: HHG)とは,強い光電場によって生じる非線形光学効果であり,文字通り,入射光の整数倍の周波数をもつ高調波が発生する現象である.この現象は,真空紫外域あるいは極端紫外域のアト秒パルスを生み出すメカニズムとして期待される.また,物質のバンド構造や電荷分布を可視化するためのツールとしても期待される. 本研究では,ナノスケールの固体物質におけるHHGを主題とする.HHGをナノスケールの固体物質中で実現することにより,小型・高繰り返しのアト秒光源およびナノ物質の電子状態計測法への道が開かれる.体積の小さなナノ物質のHHGは微弱であり観測が難しいため,プラズモニクスを活用したナノ空間における高効率なHHGを実現する.具体的な目的を以下のように設定する. (A)固体における高次高調波発生の物理機構の理解 (B)プラズモニックナノ増強場を用いた固体における高次高調波発生 (C)ナノ物質における高次高調波発生 2018年度は,上記(A)および(B)の研究を進めた.まず、(A)については,中赤外フェムト秒パルスを用いてGaSe結晶中に強い光電場を印加し,可視から深紫外域にわたるHHGの観測に成功した.また,高調波スペクトルの結晶方位依存性を測定し,HHGの物理機構に関する知見を得た.次に,(B)については,固体媒質中に効果的にプラズモニック増強場を作るよう金属ナノ構造を設計し,そのような誘電体-金属ハイブリッド素子を電子線リソグラフィーにより作製した.これまでにこの素子からのHHGの観測に成功している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記したとおり、全体計画に含まれる3項目のうち、計画一年目の2018年度は2項目について理論・実験研究を進め、良好な成果を得た。(A)の成果は米国物理学会Physical Review Letters誌に論文掲載され、また、(B)の成果は米国光学会Optics Express誌に論文掲載された。3つ目の項目についても理論検討と実験準備を開始しており、計画二年目(最終年度)に速やかに着手できる状態にある。以上の理由により、「(1)当初の計画以上に進展している。」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2019年度は、項目(B)の実験研究をさらに発展させ、より高効率かつ高機能なHHG素子を提案・実現する。とともに、項目(C)の実験に取り組む。 具体的には、電子系がナノメートルスケールの空間に閉じ込められた低次元系物質を対象とする。そのHHG実験を通して、電子系の閉じ込めが、強電場による電子波束の輸送現象(バリスティック輸送特性)に与える影響、ひいてはHHGをはじめとする光電場駆動現象に与える影響を明らかにする。実験とともに、共同研究者と連携して量子力学的数値シミュレーションを行い、両者を比較することにより、低次元物質における電子輸送特性とHHG機構を明らかにする。 また、低次元物質の電子状態とHHG特性(スペクトルおよび時間波形)との相関を理論・実験の両面から明らかにする。これにより、低次元ナノ物質の電子状態を全光学的に計測するバンド構造計測法としての可能性と課題を明らかにする。 以上の内容を、国内・国際会議で発表するとともに、専門誌の投稿論文としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
ナノデバイス作製がスムーズに進行し、当初の想定よりも経費を低く抑えることができた。また、予定していた国際会議への参加を一つ取りやめたた。そのため、次年度使用額が生じた。2019年度の予算は、翌年度分として請求した助成金とあわせ、ナノデバイスの作製費および分光計測用光学素子、さらには高次高調波発生用小型光源の開発費に充てる。
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Research Products
(23 results)