2018 Fiscal Year Research-status Report
時系列データの機械学習による結晶成長の非再現性の追求
Project/Area Number |
18K19033
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
沓掛 健太朗 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 研究員 (00463795)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 健作 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40634564)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 機械学習 / 結晶成長 / その場観察 / プロセス制御 / 再現性 / 結晶工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶成長では、同一の条件(装置、試料、成長レシピなど)で実験を行なったにもかかわらず、核形成タイミング、成長速度、結晶品質といった結晶成長の結果が異なることがある。今日、様々な結晶で成長条件・プロセスは複雑化・極限化する傾向にあり、よりシビアな条件では非再現性の問題はますます深刻となる。このような将来を見据え、本研究では、「マルチセンシング」、「時系列データの機械学習」、「結晶成長その場観察 × 大量データ」によって、非再現性の具体的な要因を特定することを第一の目的とした。さらに、非再現性に影響を与える「条件の差異」を準備過程で高感度・高精度に検出し、主過程のプロセス条件に反映させるための基本原理を獲得することを第二の目的とした。 平成30年度では、以下の研究実績を得た。「マルチセンシング」では、現有の結晶成長その場観察装置に対して改造を施し、炉内温度、ガス流量、気温、湿度などの炉内状況に関する情報を多様なセンサ類によって取得する機構を設計・設置した。さらに、これらの観測情報と、ヒータ出力、ヒータ設定温度などの装置情報および結晶成長のその場観察動画を時間同期させ、時系列データとして一元管理する結晶成長データ収集システムを設計・構築した。「時系列データの機械学習」では、実データを用いた機械学習の初期検討として、上記システムで収集した結晶成長データから機械学習用データを抽出する方法を検討し、さらにヒータ出力の時系列データから将来の炉内温度を予測する機械学習モデルを作成した。「結晶成長その場観察 × 大量データ」では、多様な条件での結晶成長データを収集し、約100回の結晶成長実験結果を蓄積することができた。 以上の成果に基づき令和元年度では、結晶成長の非再現性の要因特定および結晶成長の将来予測に基づいてプロセスを制御するための基本原理獲得を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に示すように、本研究では、機械学習を活用して結晶成長における非再現性の要因を明らかにすることを目的とし、第一に、「マルチセンシング」、「時系列データの機械学習」、「結晶成長その場観察 × 大量データ」によって、非再現性の具体的な要因を特定する、第二に、非再現性に影響を与える「条件の差異」を準備過程で高感度・高精度に検出し、主過程のプロセス条件に反映させるための基本原理を獲得することを行う。 研究計画に従い平成30年度では、以下の研究を実施した。「マルチセンシング」では、現有の結晶成長その場観察装置に対して、炉内温度、ガス流量、気温、湿度などのセンサを追加設置し、炉内状況に関する多様な情報を収集する機構を備えた。これによって、結晶成長の再現性に影響を及ぼす様々な要因候補を得ることが可能となった。さらに、センサからの観測情報と、ヒータ出力、ヒータ設定温度などの装置情報および結晶成長のその場観察動画を時間同期させ、時系列データとして一元管理する結晶成長データ収集システムを設計・構築した。「時系列データの機械学習」では、まず機械学習用のワークステーションを導入した。さらに、実データを用いた機械学習に向けて、結晶成長データから機械学習用データを抽出する方法を検討した。また初期検討として、ヒータ出力の時系列データから将来の炉内温度を予測する機械学習モデルを作成した。「結晶成長その場観察 × 大量データ」では、多様な条件での結晶成長データを収集し、約100回の結晶成長実験結果を蓄積した。以上の成果は、次年度に行う結晶成長の非再現性の要因特定および結晶成長の将来予測に基づいてプロセスを制御するための基本原理獲得において重要な基盤となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最大の特徴は、測定温度などの観測データや設定温度などの装置データのみならず、結晶成長のその場観察結果を機械学習に用いることである。そこで平成31年度ではまず、その場観察動画から機械学習に用いるデータを自動抽出するアルゴリズムを開発する。従来、その場観察動画の解析は、画像解析ソフトを人が操作することで行われてきたが、本研究では数百の結晶成長結果をデータとして用いるため、自動解析が必須である。具体的には、結晶成長動画から固液界面位置を検出し、核形成タイミングと結晶成長速度を自動的にかつ定量的に求める動画解析アルゴリズムを開発する。 次に、平成30年度での成果に基づき、マルチセンシングデータおよび結晶成長その場観察データを機械学習することによって、結晶成長中にそれまでの時系列データから将来の炉内状況および結晶成長を予測するモデルを構築する。機械学習手法としては、ニューラルネットワークおよびリカレントニューラルネットワークを検討する。さらに得られたネットワークを活用し、実際の装置操作に対応して、将来の状況をその場で実験者に表示する機構を構築する。これによって、現在は実験者の経験と勘によって行っているパラメータ調整において、より正確かつ迅速に良好な結晶成長環境を実現するためのサポートを行うことが可能となる。 最終的には、様々な条件での結晶成長データをもとに構築された機械学習モデルから、結晶成長の再現性に影響を与える要因を明らかにし、さらにその影響をフィードバックしたプロセス提案を行う方法論を確立する。
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Causes of Carryover |
物品費については、当初計画の物品を購入し、予算通りの執行を行った。旅費については、予定していた外国旅費が想定より低く済んだこと、研究開始時期が8月にずれ込んだことによって研究打合せ・実験の回数が少なかったことから、当初計画よりも低い額での執行となった。また、その他で予定していた英文校閲・投稿料の執行もなかったため、旅費・その他を合わせて上記金額の次年度使用額が生じた。令和元年では、研究成果発表のための外国旅費を予定しており、また研究加速のため頻繁な打合せ・実験も計画しているため、次年度使用額はこれらの費用に充当する予定である。
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