2018 Fiscal Year Research-status Report
光力学応答に基づく単一分子・ナノ粒子吸収分光法の開拓
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18K19057
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 光マニピュレーション / 吸収分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、少数分子やナノ粒子が光を吸収することで発生する放射圧(吸収力)を高感度・高精度に測定することで、従来の光吸収量検出に基づく吸収分光とは全く異なるアプローチで極微量サンプルの吸収分光を実現する事を目指す。 これまでの研究により、有機色素を含む数百nmサイズの高分子粒子に対して、光トラッピングの条件下で可視光を吸収させると、捕捉されたナノ粒子の光捕捉位置が光軸方向に数百から1ミクロン程度シフトすることを実験的に確認できていた。この時の実験パラーターに基づいて詳細に放射圧を計算し、数千から一万個の分子による光吸収が、光軸方向に数百nmのトラップ位置シフトを引き起こすことを明らかにした。得られた成果から、一般的な単一レーザービームを集光することで発生する勾配力による光トラッピング条件下では、数百から数千個オーダーの分子による光吸収を検出可能であることが明らかとなった。 しかしながら、従来型の(単一集光ビームの勾配力による)光トラッピング系では吸収力による被捕捉粒子の位置変位がトラップ光及び検出光学系(即ち、集光及びイメージング用対物レンズ)の光軸方向を向くため、位置検出の精度を上げることは困難であった。少数分子・ナノ粒子系を対象とした場合、発生する吸収力はより弱くなるため、吸収力の測定には、粒子の位置変位をより高い精度で検出する必要がある。その目的のために、放射圧用レーザー光の光軸と直交する方向から被トラッピング粒子の挙動を観測可能な光学系を構築した。構築したシステムにより、イメージング面上で放射圧により粒子を並進運動させることができるようになり、より高い精度(理論的には < 数nm)で粒子の位置変位を検出可能な実験系の構築することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1年目(H30年度)は、上述のように従来型の(急峻に集光されたレーザー光による勾配力に基づく)光トラッピング系において、比較的少数の分子系に対する吸収力の力学検出に成功し、この実験で得られたデータ及び放射圧理論に基づく計算により、放射圧の力学的検出結果と光吸収した分子数とを定量的に対応付けることに成功した。この結果は、分子系の光吸収と放射圧の力学測定とを結びつける重要な 研究成果であり、本研究で提案する、放射圧の力学測定に基づく吸収分光の実現に向けて、その有効性を示す結果である。さらに、より高感度・高精度の光吸収力検出を目指し、放射圧発生用レーザー光の光軸と、検出(光学イメージング)用光学系の光軸とが直交した実験システムを構築した。これにより検出用のイメージング面上で放射圧により粒子を運動させることに成功し、より高精度で粒子の位置変位を検出可能な実験系を構築することができた。この成果は、より少数の分子系の吸収力検出に有効であると期待され、ほぼ期待したとおりに研究が進んでいる。故に、現時点での評価を、「(2)おおむね順調に進展している。」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、初年度に構築した実験装置を用い、より微小な粒子に対して放射圧を作用させ、その位置の変位を高精度に追跡する。イメージング光学系の光軸に対して直交した平面(イメージング用対物レンズの物体面)に対して平行な方向から、ターゲット微粒子に強く共鳴する波長のレーザー光を低倍の対物レンズにより比較的緩やかに集光し試料粒子に照射する。ターゲット微粒子の分散媒には比較的高い粘性を有する溶媒を用いることで、ブラウン運動の速度を抑え、イメージングを容易にすることで、高い単一粒子追跡精度を達成できる実験系を準備する。またこの実験系に最適化された石英製の微小サンプルセルを設計、製作する。 ターゲット微粒子(少数分子を含む液滴、高分子微粒子、単一量子ドット、ナノダイヤモンド等)の共鳴吸収帯のピーク波長のレーザーを用い、比較的高い強度でターゲット微粒子に光照射する。光照射下での微粒子の動的挙動(並進運動)を単一粒子追跡法により詳細に追跡し、共鳴励起下での放射圧がターゲット粒子の並進運動に与える影響を精査する。得られた実験結果を詳細に解析し、放射圧(力学)測定から検出可能な分子/ナノ粒子の吸収、即ち、放射圧下での粒子の力学測定から何個の分子の吸収まで検出可能であるかを実験的に決定し、本研究におけるアプローチの限界を探る。
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Research Products
(21 results)