2019 Fiscal Year Research-status Report
光力学応答に基づく単一分子・ナノ粒子吸収分光法の開拓
Project/Area Number |
18K19057
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | 光マニピュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,分子やナノ粒子が光を吸収することで共鳴的に発生する放射圧(吸収力)を高感度・高精度に測定することで,従来の光吸収量検出に基づく吸収分光とは全く異なるアプローチで極微量サンプルの吸収分光を実現する事を目指す。 初年度の研究により,数百ナノメートルから数マイクロメートルサイズの高分子微粒子に含まれる有機色素分子の基底状態吸収により発生する放射圧を精密に測定することに成功し,一般的な単一レーザービームを集光することで発生する勾配力による光トラッピング条件下では,数百から数千個オーダーの分子による光吸収を検出可能であることを明らかにした。今年度は,昨年度に構築した,放射圧発生用レーザー光の光軸と直交する方向から被トラッピング粒子の挙動を観測可能な自作光学系を用い,これまでより微小な,量子ドットに作用する放射圧の検出に挑戦した。粒径が微小な量子ドットの観察を容易にするため糖類を添加し粘性を高めた水溶液に市販の量子ドット(仕様:直径6 nm)を分散させ,可視レーザー光を緩やかに集光し照射したところ,吸収力及び散乱力により光軸方向に運動する粒子を蛍光イメージから確認することができた。この現象を定量的に説明するために,種々の条件を考慮したブラウン動力学法に基づくシミュレーションを実施したところ,実験における光照射条件では,単一の量子ドットを輸送するには放射圧が幾分小さい事がわかり,実験結果の再現には複数個の量子ドットが集合した凝集体を考える必要があることが分かった。また,短寿命過渡種による吸収(励起状態吸収)に起因する共鳴吸収力の検出にも取り組み,有機色素を含む高分子微粒子やハイブリッド微粒子に対して,短寿命過渡種の光吸収に起因する放射圧によるミクロ運動の検出にも成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目(令和元年度)は,初年度に高感度・高精度の光吸収力検出を目指して構築した,放射圧発生用レーザー光の光軸と検出(光学イメージング)用光学系の光軸とが直交した実験システムの最適化とそれを用いた量子ドットの光輸送実験を行った。上述のように量子ドットの輸送が観測され,その詳細な機構を解明するために計算機シミュレーションを行った結果,実験結果を再現するには,複数個の量子ドットが凝集した粒子を考える必要があることを明らかにした。また,量子ドットの粒径が6 nmの場合,吸収断面積としてはモル吸光係数の大きな有機色素の100倍程度以上あれば,現在のシステムでは検出可能な光輸送が実現できると予想された。このように,比較的少数の量子ドット集合体に対する吸収力の力学検出に成功した本成果は,少数量子システムの光吸収と放射圧の力学測定とを結びつける重要な研究成果であり,また本研究で提案する,放射圧の力学測定に基づく吸収分光の実現に向けて,実験系及びシミュレーション両面で重要なツールが開発できたと考えられる。また,研究開始当初には想定していなかった,短寿命過渡種の光吸収に起因する放射圧によるミクロ運動の検出にも成功しており,これらを総合的に判断して,現時点での評価を「(2)おおむね順調に進展している。」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年(2020年)度は,コロナ肺炎の影響で停止してしまった学会等での成果発表・情報収集を実施し,研究の総括を行う。
|
Causes of Carryover |
令和2年(2020年)3月,当初予定で参加を計画していた学会が中止となった。研究遂行上,学会参加による情報収集と研究成果の発表・研究者間での議論が不可欠であるため,代替の学会が開催される12月まで計画を延長する必要が生じた。
|
-
-
-
[Journal Article] Object Transportation System Mimicking the Cilia of Paramecium aurelia Making Use of the Light‐Controllable Crystal Bending Behavior of a Photochromic Diarylethene2019
Author(s)
Ryo Nishimura, Ayako Fujimoto, Nobuhiro Yasuda, Masakazu Morimoto, Tatsuhiro Nagasaka, Dr. Hikaru Sotome, Dr. Syoji Ito, Hiroshi Miyasaka, Satoshi Yokojima, Shinichiro Nakamura, Ben L. Feringa, Kingo Uchida
-
Journal Title
Angewandte Chemie International Edition
Volume: 58
Pages: 13308-13312
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-