2020 Fiscal Year Research-status Report
燐光由来の近赤外円偏光発光観測に向けたパラダイムシフト
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18K19063
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
羽會部 卓 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70418698)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | キラル分光特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は一重項分裂と円偏光発光の励起状態制御を主な目的として、キラルリンカーを有するアセン誘導体(ペンタセン)の合成と光物性評価を行った。まず、いずれの誘導体もキラルリンカーの導入に関わらず高い蛍光量子収率が保持されていることを確認した。このペンタセンを用いた系では溶液濃度を一定としつつ水とテトラヒドロフラン(THF)の体積比を変えた混合溶媒で分子集合体作製し、集合体構造と光物性について評価した。その結果、相対的な水の体積比が増すにつれてペンタセン間の相互作用に伴う吸収スペクトルのブロードニングと蛍光スペクトルの強度の大幅な消光が観測された。動的光散乱や透過型電子顕微鏡測定では100-200 nm程度のナノ粒子の生成が確認された。また、404 nmを励起波長とする蛍光寿命測定では100 ps程度の短い短寿命成分が観測され、一重項分裂の進行が示唆される結果となった。より明確な一重項分裂の進行を確認するために、励起波長532 nmとするピコ秒過渡吸収測定を行った。光照射後約1 nsにおいてペンタセンの励起三重項状態に由来する三重項ー三重項(T-T)吸収が確認された。項間交差による励起三重項生成と比べて大幅に速い時間スケールでのT-T吸収の観測は一重項分裂の進行をはっきりと示す結果と言える。これらの一連の時間分解分光の測定は全ての体積混合比において同様に行った。得られた速度定数は分子集合体の内部構造と関連するものと現在考え今後解析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的とする一連のアセン分子の合成を確認した。また、分子集合体の構造と光物性の評価の一部を系統的に行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はこれらの分子集合体の円偏光発光特性を評価する予定である。また、時間分解円二色性測定及びフェムト秒過渡吸収測定にも取り組んで詳細なキラル分光特性・励起ダイナミクスを明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由はコロナ禍に伴い、研究代表者の所属機関でのサンプル合成作業の実験計画に変更が生じてしまったためである。また、それに伴い海外での共同研究計画の実施に遅延が生じたためである。今年度の使用計画はサンプル合成用の試薬に充てる予定である。
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