2018 Fiscal Year Research-status Report
リチウム内包フラーレンと遷移金属との特異軌道相互作用を駆使した分子素子機能の開発
Project/Area Number |
18K19066
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飛田 博実 東北大学, 理学研究科, 教授 (30180160)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 金属内包フラーレン / ルテニウム錯体 / X線結晶構造解析 / 炭素-13NMRスペクトル / 動的挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
リチウムイオン内包フラーレンの内部のリチウムイオンを,フラーレンの外側に配位した遷移金属フラグメントとの相互作用により制御するために,多様な金属フラグメントが内包フラーレンに配位した錯体の合成とそれらの性質の解明を目指して研究を開始した。既に報告している10族の白金の錯体および9属のイリジウムの錯体に続いて,今年度は8族のルテニウムの錯体の合成を検討した。クロリド,ニトロシルおよびホスフィン配位子を持つ中性の配位不飽和なルテニウム錯体とリチウムイオン内包フラーレンとを塩化メチレン中室温で反応させたところ,1個のルテニウムフラグメントがフラーレン骨格の2つの炭素に配位した錯体Aが,暗緑色粉末として高収率で得られた。錯体Aは,再結晶により黒色の良好な単結晶が得られたので,X線結晶構造解析を行った。その結果,錯体Aのルテニウムが配位したC=C結合は,対応する空のフラーレンの類縁錯体のC=C結合よりも長いが,白金のリチウムイオン内包フラーレン錯体の対応するC=C結合よりも短いことが分かった。これは,今回合成したルテニウム錯体からのC=C結合への逆供与が,空のフラーレンの錯体よりは強いが,白金錯体ほど強くないことを示している。このことは,室温での炭素-13NMRスペクトルで,白金錯体は多数の鋭いフラーレン骨格炭素のシグナルを示すが,ルテニウム錯体はルテニウムフラグメントの動的挙動に起因するブロードなシグナルを示すことからも支持される。錯体Aについては,現在ルテニウム上の配位子の引き抜きによる配位様式の変換,二つ目のフラグメントの配位の検討などを試みている。また,ルテニウム上にシクロペンタジエニル配位子とカルボニル配位子を持つフラグメントが配位した錯体の合成も検討し,質量スペクトルで複数個のルテニウムフラグメントがリチウム内包フラーレン骨格上に配位した錯体が生成していることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究は少人数の経験の少ない学部学生が中心になって推進されていること,リチウム内包フラーレンが高価であり少量ずつしか使えないこと等を考慮すると,当初は比較的順調に進んでいた。しかし,今年度の途中で,本研究に取り組んでいた学生の一人が休学してしまったため,研究の進度が極端に遅くなり,現在は予定よりやや遅れた状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年の4月から新たに,本理学研究科内の別の部署に,リチウム内包フラーレンの研究に熟達した研究者2名が加わった。彼らとは緊密に協力しながら研究を進めることで合意している。そのうちの1名は,研究代表者の研究室の出身で,リチウムイオン内包フラーレンを共に開発した仲間である。今後,研究代表者の研究室の学生の指導を依頼したり,共同研究も行う予定である。研究の効率を上げ,初年度の遅れを取り戻すために最大限の努力をする所存である。
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Causes of Carryover |
本研究計画で研究を始めた学生の一人が,途中で不登校になった後に休学してしまったため,当該学生が行う予定だった実験がほとんど進まなかった。そのため,試薬,溶媒等の実験で使用する消耗品のための費用を,初年度は予定よりかなり少ない量しか使わなかったことが,次年度使用額が生じた主な理由である。幸い,休学した学生の代わりに本研究計画を行う学生が昨年末に決まり,現在研究を開始しているところである。次年度は,2019年4月から新たに本理学研究科に加わった,リチウム内包フラーレンの研究に熟達した研究者の協力も得て,多くの実験を行い,成果を挙げる予定である。
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