2018 Fiscal Year Research-status Report
励起状態の活用にもとづくイオン性中間体の発生と反応開発
Project/Area Number |
18K19073
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大松 亨介 名古屋大学, 工学研究科(WPI), 特任准教授 (00508997)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | ラジカルイオン / 酸性度 / 光レドックス触媒 / ブレンステッド酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
シリルエノールエーテルのアリル位-Hアルキル化反応を実現し得るハイブリッド触媒系を確立した。まず、シリルエノールエーテルの一電子酸化により生じるラジカルカチオンのpKaを計算化学的手法で算出した結果、アセトニトリル中でのpKaが8.9であると見積もられ、同溶媒中のp-トルエンスルホン酸(pKa = 8.6)と同等であることがわかった。加えて、シリルエノールエーテルの酸化電位の測定を行い、一般的な光酸化還元触媒で酸化されることを確認した。 この知見をもとに、光レドックス触媒としてIr錯体、ブレンステッド塩基として2,4,6-コリジンを選択し、青色LED照射下でシリルエノールエーテルと電子不足オレフィンを反応させたところ、期待通り高収率で目的のアリル位アルキル化体が得られた。塩基の添加および種類の重要性も確認しており、酸化されやすいアルキルアミンや不均一となる無機塩基を加えても目的の生成物は得られないことを明らかにした。また、2,6-位に嵩高いt-ブチル基を有するピリジン誘導体を用いると収率が大幅に低下した結果は、カチオンラジカルの速やかな脱プロトン化が必須であることを示唆した。本反応は、シリルエノールエーテルのケイ素上の置換基にはほとんど依存せず、ラジカル受容体であるオレフィンも含めて広範な基質が適用可能であり、複雑な天然物誘導体の位置選択的な官能基化にも応用できる。また、基質適用範囲を実験的に検証すると同時に、計算化学的手法による基質と収率の相関解明にも取り組み、発生するアリルラジカルのアリル位のスピン密度の大きさが付加段階の活性化エネルギーに影響することを突き止めた。本反応で得られた生成物はエノールエーテル部位を残したままであり、引き続くα-位でのイオン反応を行うことで高度に官能基化されたカルボニル化合物へと変換できることも実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
業績の概要欄記載の通り、一電子移動反応によって生成するラジカルイオンの酸性度を正確に見積り、酸性度向上を活かしてユニークな触媒反応を開発することに成功しており、初年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。特に、シリルエノールエーテルの一電子酸化によって生じるラジカルカチオンが、スルホン酸に匹敵するほどの高い酸性度を発揮することを明らかにした点が大きな発見であり、ラジカルイオンの強酸性を活かした新反応の開拓につなげることができる。実際、開発したシリルエノールエーテルのアリル位アルキル化反応では、一電子移動反応によって生成するラジカルイオンから求核的なラジカルを生成させており、ラジカルイオンを求核種前駆体として利用しているのみであったが、反応系内で触媒的に生成する強酸性ラジカルイオンをブレンステッド酸として活用する新しい触媒反応を発見することにも成功している。ここで発見した電子移動反応による酸性度向上という現象を、分子内一電子移動反応によるラジカル双性イオンの生成につなげることで、本研究で目指す励起酸が創製できると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
シリルエノールエーテルあるいは電子豊富オレフィン、電子豊富アレーンの一電子酸化によって生じるラジカルイオンを酸触媒として活用する反応開発を継続する。ラジカルイオンの生成については光レドックス触媒の利用を基本戦略とするが、分子内電荷移動による強酸性の発現を指向した新しい光親和性有機分子触媒の開発も並行して進める。 本研究の遂行には、開発する有機分子の基底状態・励起状態の性質や、生成するラジカルイオン種の性質に関する情報集積が不可欠である。各種分光学的手法による解析が重要となるのはもちろん、理論計算による予測が極めて有効になると考えている。そのため、代表者の所属機関である名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所内の計算化学者の協力を得ながら、理論計算による検証を行う。 2018年度は代表者と大学院生1名で本研究を遂行したが、反応開発と新規触媒の開発、分光学的手法による解析、さらには理論計算による検証を同時進行させるためには、プロジェクトに参画するメンバーを増員する必要があり、学部4年または修士課程1年次の学生を新たに加えて研究を実施する。
|