2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K19088
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大塩 寛紀 筑波大学, 数理物質系, 教授 (60176865)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 金属錯体 / スピンクロスオーバー / 電子移動 / 外場誘起電子状態変換 / 固体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、固体中でプロトン移動とスピンクロスオーバー(SCO)や電子移動(ET)が連動するプロトン共役スピン状態変換(PCSCO: proton coupled spin crossover)システムやプロトン共役電子移動(PCET: proton coupled electron transfer)システムを構築し、外場による高効率電子状態変換分子システムの実現を目的とする。 本研究では、1) ブレーンステッド 酸である配位子をもつ金属錯体を合成し、プロトン脱離(移動)と電子状態が結合するSCO錯体や混合原子価(MV)錯体を合成する。2) その共役塩基(プロトン供与体)あるいは共役酸(プロトン受容体)を水素結合で集積したPCSCO錯体集合体およびPCET錯体集合体を構築し、プロトン移動と電子状態変換が結合する「光・電場で磁気的性質や電気的性質などの電子状態を高効率に変換が可能な分子システム」を実現する。 H30年度は、「光・電場で電気的性質と磁気的性質を自在に変換できる分子システムの構築」の基本コンポーネントとして、プロトン共役スピンクロスオーバー(PCSCO)錯体を合成した。本研究では、pKaが異なる二塩基酸配位子(ピラゾールとイミダザゾール部位をもつH2impz = 2-imidazol-6-pyrazol-pyridine)からなるSCO錯体([FeII(H2impz)2]2+)を合成した。ここで、[FeII(H2impz)2]2+は配位子のプロトン脱離に伴いHigh-Spin (HS) [FeII(H2impzR)2]2+、SCO [FeII(HimpzR)2]、Low-Spin (LS) [FeII(impzR)2]2-とスピン状態が変化するPTSCO錯体ユニットを合成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子性化合物は,柔軟な構造・電子状態をもつにもかかわらず,その酸化状態・スピン状態の組合せに基づく光物性・磁性・電気的性質が強く結合する系は極めて少ない。このため外場、特に電場による電子状態変換分子システムは皆無であり、その開発が強く望まれている。このような物質開発には、僅かな外場による摂動で電子状態が鋭敏に変化する分子の合成が鍵となる。金属錯体のスピン状態・酸化還元電位は、配位子の電子状態に極めて敏感である。そこで、本研究ではブレーンステッド 酸(あるいは塩基)である配位子(ブレーンステッド配位子)をもつ金属錯体が、配位子の脱プロトン化(プロトン化)により金属イオンの配位子場強度や酸化還元電位が敏感に変化することを利用することで、プロトン脱離により電子状態変換が可能な錯体を合成した。具体的には、pKaが異なる二塩基酸配位子(H2impz = 2-imidazol-6-pyrazol-pyridine)からなるSCO錯体([FeII(H2impz)2]2+)を合成した。[FeII(H2impz)2]2+は配位子のプロトン脱離に伴いHigh-Spin (HS) [FeII(H2impzR)2]2+→SCO [FeII(HimpzR)2]→Low-Spin (LS) [FeII(impzR)2]2-とスピン状態が変化することを確認できた。さらに、本錯体は酸化還元活性でるため、(HS)[FeIII(HimpzR)(H2impzR)]2+、 (LS)[FeIII(HimpzR)(impzR)]、(LS) [FeIII(impzR)2]-を単離することができた. 初年度は酸化還元活性・スピン状態変換可能な錯体コンポーネントを合成することにより、次年度以降の研究基盤は達成できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度合成した酸化還元活性・スピン状態変換可能な錯体コンポーネントを集積化することで、以下の電場誘起電子状態変換システム構築を目指す。 1) 水素結合によるPCSCO錯体の集合化と電場によるスピン状態変換 PCSCO錯体ユニットと有機酸([HL])あるいは塩基([L-])を水素結合で連結することで(図2)、[プロトン移動によるスピン状態変換]を実現する。すなわち、電場印加でプロトンを動かし、 配位子場強度を変えることで、電場によるスピン状態変換を達成する。 2) プロトン共役電子移動(PCET)錯体の合成と電場誘起電子移動 ブレーンステッド酸である配位子をもつ金属錯体は、配位子のプロトン脱離により、その酸化還元電位は負側にシフトする(Fe(II)よりFe(III)が安定になる)。すなわち、Brensted 酸錯体とその共役塩基錯体を水素結合で繋ぐことができれば、分子間水素結合プロトンを動かすことで、両錯体の酸化還元電位が逆転し、電子移動が誘起される。そこで、PTSCO錯体ユニット[FeII(H2impzR)2]2+および脱プロトン体を、酸化体[FeIII(H2impzR)2]+やその脱プロトン体と組合せることでプロトン共役電子移動(PCET)錯体([FeII(H2impzR)2][FeIII(impzR)2]や[FeII(HimpzR)2][FeIII(HimpzR)2])を合成する。この系において、プロトン移動とスピン状態変換・電子移動が結合するシステムを構築する。
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Causes of Carryover |
本年度の研究の早い段階で、想定していた構造をもつ化合物が得られ、詳細な物性測定と研究成果発表を予定よりも早く行うことになった。その結果、使用計画で計上していた物品費を使わなかったため、次年度に使用することにした。
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Research Products
(17 results)