2019 Fiscal Year Research-status Report
Functional Model of Methane Generation Enzyme MCR Having Ni-containing F430 as a Cofactor
Project/Area Number |
18K19099
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 高史 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20222226)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | 人工補因子 / F430 / ヘムタンパク質 / ニッケル錯体 / メタン生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
メタン細菌では、二酸化炭素代謝物の分解によるメタン生成が行われ、メチル補酵素M還元酵素(MCR)が、その最終段階で、メチル補酵素Mをメチル供与体とするメタン発生を担っている。この酵素は、コファクターF430とよばれるモノアニオン環状テトラピロール配位子のニッケル錯体を活性中心として含み、低原子価ニッケル種を介して、メタンの発生を促している。本研究の目的は、この非常に複雑なF430配位子の環骨格であるコルフィン環を含む酵素に対する厳密なモデル反応の再現や、酵素が繰り広げる触媒反応を非天然反応に応用することにある。初年度までに、コファクターF430のモデルとして、ニッケルをモノアニオン環状テトラピロール配位子であるテトラデヒドロコリンに挿入した人工補因子を合成し、ヘムタンパク質であるミオグロビンのアポタンパク質に挿入した。得られた再構成タンパク質はヨウ化メチルを基質とするメタン発生について触媒能を有することを示した。 本年度は、テトラデヒドロコリンのニッケル錯体よりも、さらに高い活性が期待されるジデヒドロコリンのニッケル錯体を新規に設計、調製し、天然酵素反応類似の硫黄-炭素結合の切断を試みた。ヨウ化メチルを基質とするメタン発生と比較して、難易度の高い反応であるので、タンパク質内で反応部位として硫黄-炭素結合を含むメチオニンをヘム結合サイトに含むシトクロムb562のアポタンパク質に、この錯体を挿入し、ルテニウム錯体を用いた光還元系により反応を評価した。その結果、ジデヒドロコリンのニッケル錯体がヘム結合サイトのメチオニン残基の硫黄-炭素結合を水中で切断し、メタンを発生することを明らかにした。今後、より天然の反応条件に近い条件下で、外部基質に対して作用するモデル及び人工酵素の構築をめざす。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まずF430コファクターのモデルとして、初年度に調製したテトラデヒドロコリンのニッケル錯体よりも高い反応性が期待されるジデヒドロコリンのニッケル錯体を設計し、調製した。ジデヒドロコリンのニッケル錯体はNMR、質量分析、可視紫外吸収スペクトルを用いて同定した。電気化学測定によりジデヒドロコリンのニッケル錯体はテトラデヒドロコリンのニッケル錯体よりもNi(I)/Ni(II)の酸化還元電位において、約200 mV負の値を示した。これは、ジデヒドロコリンのニッケル錯体の方が低原子価種を不安定化していることを示唆しており、高い反応性を与えることが期待された。次に、以前用いた基質であるヨウ化メチルからのメタン発生よりも天然反応に類似した硫黄-炭素結合の切断によるメタン発生を指向して、硫黄-炭素結合を含むメチオニン残基をヘム結合サイトに含むシトクロムb562のアポタンパク質に人工補因子を挿入した。得られた再構成タンパク質の生成は可視紫外吸収スペクトルおよび円二色性スペクトルにより確認した。再構成タンパク質の溶液に光増感材であるルテニウムトリスビピリジン錯体を添加し、光照射により還元し、気相をガスクロマトグラフィーで評価した。テトラデヒドロコリンのニッケル錯体を含む再構成タンパク質や、人工補因子のみあるいはアポタンパク質のみではメタンは発生しなかったが、ジデヒドロコリンのニッケル錯体を含む再構成タンパク質ではメタンが発生していることを確認した。反応後のタンパク質を質量分析により評価すると、メチル基に相当する分子量が減少していることが明らかになった。メチオニンをロイシンに置換した再構成タンパク質変異体では、メタンは発生せず、ヘム結合サイト内の近接効果によりメチオニン残基の硫黄-炭素結合の切断によりメタン発生が起こっていることを証明した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の展開として、これまでに合成した二種類の人工補因子とヘムタンパク質を組み合わせ、再構成タンパク質を調製し、さらに変異を積極的に導入することで、外部基質の硫黄-炭素結合切断を伴うメタン発生をめざす。これを達成するにはタンパク質反応場の改変による、活性種の反応性の向上と基質の取り込みを同時に達成する必要がある。活性を示す変異体について、X線結晶構造解析を実施し、変異導入のさらなる最適化を実施する。また反応機構の解明についても取り組む。現在、天然酵素MCRによる硫黄-炭素結合切断を伴うメタン発生では二つの作用機序が提唱されている。一つはニッケル-炭素結合を含む化学種の生成を経る機構、もう一つはメチルラジカルの生成を経る機構である。どちらにおいてもニッケルの低原子価種が活性種であると考えられており、本研究で用いる系では、特にテトラデヒドロコリンのニッケル錯体において低原子価種が比較的簡便に調製できる点で、天然酵素よりも作用機序の解明が容易であると予想される。生成した低原子価種による硫黄-炭素結合の活性化とその後のメタンへの転換がどのように起こるかを、分光学的実験と速度論的解析等により詳細に評価し、明らかにする。また天然酵素MCRでは脱ハロゲン化反応が起こることも知られている。本研究の再構成タンパク質も同様の反応の触媒として作用可能と考えられるので、脱ハロゲン化の基質として臭化ベンジルやその誘導体を用いて反応評価を行い、作用機序への考察を実施する。またメタン発生の場合よりも、ニッケル-炭素結合を含む中間体や基質のラジカルが安定で、観測可能であることも予想されるので、様々な評価法を用いて多角的に取り組む。またこれらの反応を応用し、本再構成タンパク質を基盤として、非天然反応に触媒作用を示す人工酵素の開発に展開する予定である。
|
Causes of Carryover |
今回、新規に調製したジデヒドロコリンのニッケル錯体は、本研究でこれまで取り扱ってきたテトラデヒドロコリンのニッケル錯体よりも、酸化還元電位が大きく負にシフトしており、従来の還元試薬を用いた系では錯体が活性化できず、反応が進行しないことが年度の途中で明らかになった。還元試薬の代わりに光増感色素を用いた光還元によって、この問題を解決したが、予想に反して反応条件の最適化に時間を要した。そのため当初は年度内での実験を計画していた本モデル系を用いた天然酵素の作用機序に関する評価を、次年度に実施することとした。次年度に持ち越した予算の使用に関しては、作用機序の評価に必要な試薬等の消耗品の購入に用いる。
|
Research Products
(5 results)