2019 Fiscal Year Research-status Report
電圧印加型プロトン充填材料の探索による水素貯蔵イノベーション
Project/Area Number |
18K19122
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤岡 正弥 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (40637740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
李 哲虎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ長 (80358358)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 水素吸蔵 / 固体電気化学 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
水素社会の実現に向けて、水素を如何にして貯蔵するかは最も重要な課題の一つである。しかしながら、水素原子は0.5Åの原子半径を有し、吸蔵に伴い体積が膨張するため、サイクル特性の向上が大きな課題となっている。本研究では、水素を原子として導入するのではなく、それを電離したプロトン(H+)の形で、電気的に固体中に蓄えることが可能な新規材料の探索を進めている。 これまでに当該グループでは、放電現象を利用した水素イオン導入法を開発している。この手法は、水素雰囲気中で針状電極に高電圧を印加し、発生するコロナ放電により、電極先端付近の水素分子をプロトンに電離する。これらのプロトンを直接固体中に導入することで水素化物の合成を進めている。この手法をさらに拡張させ、針状電極に逆バイアスを印加した場合、アニオンであるヒドリドが生成し、これを試料に照射できることを見出した。つまりこの手法は、カチオンだけでなく、アニオンにおいても固体電気化学的な制御が可能であることを示唆している。本年度はこの成果について、応用物理学会および日本金属学会にて報告し、当該分野の研究者と様々な意見を交換した。さらに昨年度構築した第一原理計算用のサーバーを用いて、ペロブスカイト構造を中心に2900個の構造を仮定し、酸素サイトをヒドリドに置換した場合に得られる新規物質の探索を進めている。さらに、水素イオンの伝導経路やそこに発生する拡散の活性化エネルギーを見積もるためのアルゴリズムを開発した。令和1年度は今後の物質合成に必要となる一連の計算プログラムの開発に重点を置き研究を推進した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で活用する手法により、固体中に水素イオンを導入することができたとしても、現実に利用するためには、それらの物質が利用環境で安定な構造をとる必要がある。近年計算科学の発展に伴い、第一原理計算を活用したマテリアルズインフォマティクスが世界中で進められている。これらを取り入れた研究を推進するため、令和1年度は、ペロブスカイト系材料の自動計算システムを構築した。現在2900種類の組成を変化させ、構造の最適化をおこなっている。さらに、3元系以上の物質の仮想構造にたいして、熱力学的安定性の判定を取り入れる取り組みが近年徐々に発展しており、本研究においても、これを取り入れるための準備を進めている。 また、構造の破壊を伴わずに水素の出し入れを行うためには、構造中にイオンの伝導経路が存在し、水素のイオンがこの伝導経路上の弱いポテンシャルにトラップされ、尚且つわずかな外場でそのポテンシャルを飛び越えるような状態が必要である。令和1年度は、結晶構造中に存在する伝導経路を計算し、この経路中に存在する拡散の活性化エネルギーを見積もるアルゴリズムを構築するところまで研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、第一原理計算で進めているペロブスカイト系材料の仮想構造では、酸素と水素の組成比が2:1である。現状の計算がすべて終わった段階で、候補となった物質については順次合成を進める予定である。また、さらに水素濃度比が高い物質についても、計算を走らせ、得られた候補材料の物質合成に挑戦する。一方、水素イオンを構造の伝導経路上にトラップさせるような物質に関しては、強固な共有結合で構造骨格を組み上げ、その空隙をイオン伝導するような物質が望ましいと考えられる。そこで、Si、B、C、Al、P等の構造骨格を形成しやすい元素に焦点を当て、既存材料をベースに水素イオン交換によって水素化物の合成を推進する。これと同時に、適切な拡散の活性化エネルギーを有する構造骨格を、計算科学から導くことで、水素の出入りに対して高いサイクル特性を有する物質の開発をサポートし、研究開発を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスにより、必要な情報収集を目的とした研究会に参加できなかったため、次年度使用額が発生した。使用計画としては、次回研究会参加のための費用とする。
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