2018 Fiscal Year Research-status Report
生物におけるホウ素の新機能の検証-ビタミンB6代謝に対するホウ酸の役割-
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18K19160
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
三輪 京子 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50570587)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | ホウ素 / 必須元素 / ビタミンB6 / シロイヌナズナ / 酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
必須元素とは、生物のライフサイクルを完結させるために欠くことのできない元素を指す。ホウ素は植物の微量必須元素のひとつであり、実験的に示されている生理機能は植物細胞壁のペクチン質多糖の架橋のみである。近年、酵母、動物においてもホウ素の有用性が報告されてきている。これらの生物は細胞壁ペクチンを持たないため、細胞内の可溶性画分に存在するホウ素に未知の生理機能がある可能性を示唆するものであるが、植物細胞壁以外のホウ素の生理機能は明らかにされていない。 先行研究において、高濃度のホウ酸が植物(シロイヌナズナ)においてビタミンB6欠乏障害を緩和する可能性を見出した。本研究では、高濃度のホウ酸が植物のビタミンB6欠乏障害を緩和する機構の解明を通じて、細胞壁とは異なる、可溶性画分に存在するホウ素の生理機能を示すことで、生物に普遍的なホウ素の役割の解明を目指した。 シロイヌナズナにおいて高濃度ホウ酸がビタミンB6欠乏障害を緩和するという現象の確認とビタミンB6定量を行う栽培条件を確定させるため、ビタミンB6代謝に関わる複数の酵素遺伝子の変異株を対象として、様々なホウ酸濃度存在下での成長試験を行った。その結果、各変異株でホウ酸による成長抑制の回復が観察される光条件や培地ホウ酸濃度は異なることが明らかになり、各変異株の応答の違いを見出した。ホウ酸の効果が観察される条件の違いがあるものの、各変異株においてホウ酸依存的な成長抑制の回復が確認された。成長回復の原因がビタミンB6量の変化に起因するのか否かを明らかにするため、HPLCによるビタミンB6定量の測定系の新規立ち上げの準備を進めた。また、ホウ酸の効果の普遍性を明らかにするため、酵母(Saccharomyces cerevisiae)におけるビタミンB6合成酵素遺伝子の破壊株での成長試験のため、培地組成検討を含めて準備を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は植物および酵母の双方の実験において、解析の準備に時間を要した。特に、植物のビタミンB6定量実験では、ビタミンB6代謝に関わる複数の酵素遺伝子のシロイヌナズナ変異株において、ホウ酸による成長回復が顕著に認められる環境条件(光条件および培地中ホウ酸濃度)が異なることが見出されたため、定量を行う環境条件の設定に時間を要する結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に従い、以下の実験を進める。 (1)ビタミンB6合成が低下したシロイヌナズナ変異株における高濃度ホウ酸による生育抑制の回復の分子機構を明らかにするため、ホウ酸がビタミンB6合成に与える影響に焦点をあて、異なるホウ酸条件で生育させた野生型株およびビタミンB6合成変異体植物を用いて、植物体内のビタミンB6量の蓄積量の変化をHPLCによる測定を行って明らかにする。 並行して、(2)高濃度のホウ酸によるビタミンB6欠乏症の回復が、酵母においても観察されるかを検証する。ビタミンB6合成酵素遺伝子を欠損した酵母を用いて、ビタミンB6欠乏培地での成長抑制がホウ酸添加によって回復するかを明らかにする。加えて、野生型株酵母においては、ホウ酸を欠如させた環境で生育させ、成長抑制などのホウ酸欠乏症状が認められるかを明らかにする。 研究推進のため、短時間の研究補助者の雇用を計画している。
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Causes of Carryover |
シロイヌナズナにおける栽培条件の設定、HPLC測定の新規立ち上げに時間を要したため、当初予定していたビタミンB6代謝に関わる遺伝子変異株でのビタミンB6定量には至らなかった。また、情報収集のため学会参加を計画していたが、研究遂行を優先したため次年度使用額が生じた。 次年度に酵母での様々な培地条件での成長観察実験およびビタミンB6定量の機器分析を進めるための物品費(消耗品)として使用する。また、研究推進のため、短時間の研究補助を雇用する。
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