2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K19168
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野尻 秀昭 東京大学, 生物生産工学研究センター, 教授 (90272468)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田代 陽介 静岡大学, 工学部, 講師 (30589528)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 膜小胞 / 遺伝子の水平伝播 / 遺伝子組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、膜小胞(メンブレンベシクル)を介した遺伝子の水平伝播が注目されている。膜小胞は全ての微生物が分泌する直径20-200 nmの細胞外小胞で、内部にはDNA、タンパク質、情報伝達物質などが包含されており、他細胞に融合することで情報伝達ツールとして機能している。しかし、膜小胞の生成・分泌過程に比べて、融合過程についての基礎的な研究が不足している。 本研究では、好気・嫌気両条件下で多数のモデル細菌や微生物群集を用いて膜小胞融合能(融合頻度や受容菌選択性の有無)を評価し、融合に関する基礎的データを蓄積する。また、ベクターに載せた外来遺伝子の導入・発現や破壊用遺伝子カセットを用いた遺伝子破壊等が可能かを、頻度を含めて評価する。これらを通して、好気・嫌気両条件下での遺伝子組換えツールとしてのポテンシャルを評価する。初年度は、DNAを含有する膜小胞形成の最適化と、膜小胞を介した遺伝子伝播の受容菌選抜における実験系構築を目指した。 まず、大腸菌から分泌される膜小胞へのDNA封入効率を検証した。大腸菌BW25113株ならびに既知の膜小胞過剰分泌細菌にプラスミドpUC19を保持させ、分泌される膜小胞内のDNA量を測定したところ、膜小胞あたりのDNA量には著しい変化は見られなかった。一方、グリシンは膜小胞生産を向上させる物質であるが、グリシンを添加すると培養上清中のDNA濃度も増加した。 さらに、大腸菌膜小胞の受容細菌を検出するため、膜小胞へのGFP導入を検討した。大腸菌株にOmpW-GFPを発現させたところ、グリシン添加により形成された膜小胞内にGFPが効率よく封入されており、膜小胞取り込み細菌をフローサイトメトリーで検出する際のツールを確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究により、遺伝子組換え検出用のベクターを導入した膜小胞の効率的作成方法をほぼ確立することができた。また、膜小胞の受容菌への接着(融合)を検出するためのGFP高含有膜小胞の製作法も確立できた。当初想定された膜小胞生成微生物の違いによる膜小胞の性質の違いは現在のところ認められてはいないが、2018年度の成果により、膜小胞の接着(融合)をフローサイトメーターで検出すると共に、接着後に細胞内に取り込まれたDNAから発現したマーカーによって遺伝子組換えの頻度を評価する系が構築できたと言える。フローサイトメーターの故障のため接着(融合)の検出を開始できてはいないが、DNA(ベクター)含有GFP標識膜小胞の調製方法に目処を付けることができた点は計画よりは早く進捗している。このような状況から、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度で生成方法を確立した遺伝子組換え用ベクターを含むGFP標識済膜小胞を用いて、「受容菌細胞への接着(融合)」とその後に起こる「安定なベクターの保持と組換え体の生成」をそれぞれ定量的に評価する。そのため、それぞれ下記の(1)、(2)で示す方法で研究を推進する。 (1)接着(融合)能評価 GFPを高発現する大腸菌の培養液から、膜小胞を超遠心により調製し、代表的な好気性・嫌気性菌や環境から単離した細菌群集と様々な条件で混和し融合の有無・頻度を評価する。細菌群集を受容菌候補に用いた場合は、フローサイトメーターで分取した蛍光を示す細菌集団の属種を16S amplicon sequencingにより調べ、元の群集構造と比較することで、膜小胞が融合した細菌種を評価する。 (2)遺伝子組換え能評価 上記(1)で融合が観察された膜小胞と受容菌の組み合わせについて、同様の手法でベクターの移動(遺伝子組換え)が起こるか否かを、ベクター上のマーカー遺伝子(生産菌と膜小胞内では発現しない)の受容菌内での発現を指標に評価する。同時に、遺伝子破壊やトランスポゾン変異の導入のための遺伝子カセットをデザインし、破壊や変異の起こる頻度も評価する。
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Causes of Carryover |
本研究では、膜小胞が融合した受容菌細胞を、融合してない膜小胞や非受容細胞と分離するためにフローサイトメーターの使用が欠かせない。2018年中に東京大学に設置済の当該機器の分離性能の低下が見られるという故障が起き、その対応のために、フローサイトメーターによる分取実験は開始を遅らせた。このことと、これに伴う旅費の未使用分が、上の次年度使用額ができた主な原因である。 2019年度では、この計画の遅れを取り戻しつつ、当初の計画にある由来が異なる膜小胞を使った接着(融合)評価と遺伝子組換え評価を行うため、上の次年度使用額を2019年度前半に使用し、当初計画の2019年度所要額は年度内に平均的に使用する計画とした。
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